動物病院雑景

 動物病院にはいろいろな動物、いろいろな飼い主がやってくる。
 大抵は動物が変わっているか、飼い主が変かどっちかなのだが、両方備えたものに遭遇することもたまにある。
 家族総出で白いアヒルを連れてきた一家。
 先に来た父親が受付に「あのー、診察券忘れたんですけど」などとやっている間に、母親がアヒルを抱えて待合室に入ってきた。
 普通、鳥を病院に連れてくる時は、キャリーやケース、それがなければ段ボールなどに皆入れてくる。鳥と人間、お互いの安全とマナーのためであり、よっぽど大型犬とかでない限り、他の動物でもそれは同じだと思う。
 だがこの母親の場合、アヒル本体をそのまま抱えてやってきたのである。茶髪系のまあいわゆる今風母親が、白いアヒルをがっしりと持っているその勇姿に、待合室中の目が思わず集まる。母親は知らん顔して小学校低学年ぐらいの息子に何やら指示すると、息子は待合室の隅に新聞紙を敷きはじめた。
 そして、敷いた新聞紙の上におもむろにアヒルをおろす母親。解放されてすっきりしたのか、ご機嫌でお尻ふりふり羽づくろいを始めるアヒル。それを暖かく見守る一家。
 待合い室内はもう全員目が点。
 その様子に何やら得意げに母親に囁く息子。
 ちなみに、待合室には「トラブルや感染の可能性もあるので、待合い室内で動物をケースから出さないでください」という貼り紙があるのだが……まあ、そもそもケースに入れてきてないんだからしょーがないか。
 しばし後、診察の順番が回ってくると、母親はまたおもむろにアヒルを抱え、診察室にGO。新聞紙を持った息子が後に続く。
 しばらくたって終わったらしく出てきたが、母親の顔を見るとなんだかべそをかいている。
 こりゃーアヒルが余命宣告でも出されたかと思って見てみたが、腕の中のアヒルは普通。
 ということは、先生に怒られでもしたのかな。
 無理もないけど。

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