エターナルムーン プライベートリアクション
人へ 〜チャーリー




「待ってくれ」
『回廊』を抜けようとしていた青年に、ようやく追いついたチャーリー・ブラウンは声をかけた。
「……何か用か?」
「ああ、すまないが、これを……」
 振り返った青年に、彼はは懐から1通の封書を取り出し、差し出す。
「……向こうへ戻ったら投函してもらえないだろうか」
 青年は封書を受け取り、表書きを見て眼を細めた。
「……サー・ライナス・エンフィールド宛、カスケード……北米のか?」
「故郷だよ。ちょっと連絡しておこうと思ってね」
 実際には、今彼らが置かれている状況は「ちょっと連絡」などというレベルのものではないのだが、チャーリーの物言いにはまるで物見遊山の先から手紙を出すかのような気楽さがあった。それにつられて、青年の口調もなんとなく軽くなる。
「奥さんでも待ってるのか?」
「いや」
 チャーリーは真顔で首をふった。
「婚約者だ。サリーといってね、今年16になる。美人だぞ」
「……本当か?」
「冗談だよ」
「……あんた、無骨者なんだかすっとぼけ野郎なんだか良くわからんな」
 毒気を抜かれた体で青年がつぶやくのに、チャーリーは軽く笑った。笑いをおさめると、やや改まった口調になる。
「わたしが音信不通になってしまうと、家のほうでいろいろややこしい問題も出てくるのでね。そのあたりも含めた事情説明と今後の指示の手紙なんだ。頼めるかな?」
「おやすいご用さ……しかし、こんな所まで来て家の心配とはね、長男なのか? あんた」
「いいや、次男坊だよ」
「じゃあ、よっぽどでかい家か名家なんだな」
「ああ、ケンドール王家だ」
 今度はだまされないぞ、という顔で青年はふふんと笑った。チャーリーももういちど笑いを返し、それじゃあよろしく頼むと言って彼の肩を叩いた。


  1. 今後1年以内にわたし……マーク・チャールズ・ケンドールがカスケードに戻らなかった場合、死亡とみなし、しかるべく措置すること。また、それ以降にマーク・チャールズまたはその変名であるチャーリー・ブラウンを名乗る人物が現れても、すべて偽物と見なすこと。
  2. わたし、マーク・チャールズ・ケンドールは、いかなる形でもその血を受け継ぐ者をもうけたことはない。よって、もし将来その子あるいは子孫を名乗る者が現れてもそれはすべてケンドール王家とは無関係である。
  3. 世話をかけるね、ライナス。




 月へ行って(!)からの出来事です。「次回以降は元いた世界へ帰れなくなります」というマスター指示が元になっています。
 こんなのを兄王に渡さなくてはならないライナスこそ、いい迷惑というものです(笑)。

戻る