Original Story of VIFAM

ジェイナス異聞 〜前哨戦


 A.D.2052――
 地球から43光年離れたイプザーロン星系に初めて人類が入植してから、約20年がたとうとしていた。
 この間、最初の入植地ベルウィック星の開発も一段落し、人々の眼は次なる惑星、クレアドへと向き始めていた。
 だが、クレアドには以前から、数百人規模の不法居留民が存在していることが分かっている。主にアメリカの強い要請により、国連は本格入植を前に彼不法居留民の一掃を決断、軍の派遣に踏み切った。

 この時派遣されたのは、主力であるカールビンソン級3隻を含む第1戦隊、ヘルメス級2隻を中心とする第2戦隊、及び輸送艦等で構成された支援隊の計3隊である。このうち、第1戦隊はクレアド星の調査及び不法居留民の駆逐、第2戦隊はクレアド星周辺の哨戒任務に当たることになっていた。


 ヘルメス級巡洋艦・ジェイナス。
 地球で最初に作られた外宇宙用戦闘艦である。アメリカ軍に所属し一時は宇宙艦隊旗艦も勤めたこともあるこの艦は、その無骨でどこかユーモラスな外観から“オールド・ジェイ”と呼ばれて軍民を問わず親しまれていた。だが、軍艦としてはそろそろ老境にさしかかっており、現在は新型のカールビンソン級などに後を譲って二戦級の立場に退いている。さらに、この度のイプザーロン派遣終了後は姉妹艦ホダカと共に大改装を受け、士官学校、各術科学校訓練生向け練習艦となることが決まっていた。
 第2戦隊でのジェイナスの任務は、哨戒隊旗艦……早い話が見張りの親分だった。クレアド星への地上降下作戦と連動し、哨戒艦を率いて周辺宙域の策敵及び警戒を行なうのである。ジェイナスの下では、ホダカを始め数隻が同様の役目を帯びてクレアド星周辺に展開していたが、それは戦場真っ只中ならともかく、単に不法居留民を駆逐するだけにしては異常なほど厚い策敵網と言えた。
 だが、その真の理由を知る者は、まだほんの一握りしかいない……。


「……通信、哨戒艦からの定時連絡まだか」
「待ってください艦長、今確認……入りました。哨戒艦3号、異常なし、5号、異常なし、6号、異常なし」
「分かった……ボギー、能動探査の状況はどうだ?」
『現時点ではレンジ内に人工物とおぼしき反応、ありません』
「ありがとう」
 シアリーズ大佐はひとつ息をつき、もぞもぞと落ちつかなげに艦長席に座り直した。見ていた副長のスリナム中佐が声をかけてくる。
「退屈ですか? 艦長」
「馬鹿を言え」
 どこかからかうような副長の言葉に、大佐はわざとらしく背筋をのばして咳払いをした。
「任務だぞ、退屈なんてことがあるもんか……多少時間をもてあましてはいるがな」
「それでは、ちょっとしたレクリエーションプログラムでもいかがですか。小さなものですから勤務の邪魔にはならないと思いますが」
「駄目だ、不許可だ、どうせまたこないだのハッピーバースディとかいう奴みたいないたずらプログラムだろう。あんなものを食らって笑い者にされるくらいなら、退屈していたほうがいい」
「そうですか? 艦長もあの時は結構喜んでおられたように見えましたが」
 遠慮なくスリナム中佐が言い、大佐は一瞬言葉につまった。ブリッジに忍び笑いが広がる。
 ……これが新鋭艦などだと、ブリッジでの私語は一切禁止などという厳しいところもあるようだったが、“オールド・ジェイ”の艦長は「僕にできないことを皆に強いるのは可哀想だ」とそういう部分には寛容だった。トップがそんな風だったから、副長を始めとする上級士官たちも、軍人としての基本的な規律を乱しさえしなければ普段の勤務態度については部下にあまりうるさいことは言わず、そのためか、シアリーズ大佐指揮下のジェイナスは、軍の中でものびのびした気風の、勤務しやすい艦として知られていた。
「あー、ところで副長、第1戦隊の作戦進行状況はどうだ」
 話をそらすようにまた咳払いをし、大佐はスリナム中佐に言った。中佐は自席のモニタにちらりと眼を落とす。
「予定では3時間前に降下を開始しています。司令部から連絡がないところを見ると、特に状況に変化はないものと思われます」
「そうか、ではそろそろ我々も哨戒フォーメーション変更だな、航海士、どうだ」
「入力はすでに終了しています。いつでもランできます」
「よろしい」
 大佐は満足げにうなずき、帽子をかぶり直した。規律がゆるいからといって乗組員がだらけているとは限らない。むしろ、元宇宙艦隊旗艦としてはそんじょそこらの連中には負けられないというプライドがあるのか、皆自発的に練度と技量を高め、艦の旧式化を補おうとする傾向が強かった。結果、ジェイナス乗員の士気や能力は、最新駆逐艦とくらべても決して引けを取らないレベルに達している。同型なのにホダカでなくジェイナスが第2戦隊の旗艦になったのは、そんな事情も考慮されたのかもしれない。
「では航海士、10分後にフェーズを開始しよう。艦内にその旨周知……」
「緊急通信入りました、ホダカです!」
 艦長の指示を遮り、唐突に声をあげたのは通信士だった。何事? と言わんばかりの眼がさっとそちらに集中する。
「クレアド星より未確認飛行体離脱。我追撃するも補足しきれず、貴艦担当域に向かいつつあり、警戒されたし……」
「レーダーに反応!」
 通信士と重なるように、レーダー士の報告が入った。
「未確認飛行体あり。本艦前方を15時から17時方向へ、遠ざかりつつ移動!」
「……未確認だと?」
 たちまち緊張が走るブリッジで、スリナム中佐が首をかしげる。
「ボギー、なぜ未確認なんだ。このあたりの船はみんな登録済みのはずだぞ」
『該当する艦艇のデータ、ありません。識別不能です』
 問いかけられたジェイナスのメインコンピュータはよどみなく答えた。
「データがないなんてことがあるものか。もういちど照合をやり直せ」
『やり直しました。該当する艦艇のデータ、ありません』
「おいボギー!」
「中佐」
 鋭い声を出す中佐を制したのはシアリーズ大佐だった。大佐はなにか言いかける中佐に首をふり、口を開く。
「ボギー、艦長のアンドリュー・シアリーズ大佐だ……データバンク2112B-XXにアクセス」
 スリナム中佐が驚いたことに、ボギーからはすぐに反応があった。
『アンドリュー・シアリーズ大佐、声紋確認。パスワードをどうぞ。15秒以内に入力がないとデータバンク2112B-XXは無効になります』
 キーボードから大佐がパスワードを打ち込むと、すぐにメインスクリーンが明るくなった。そして、今まで見たこともない異様な形の飛行物体の画像が映る。
『レーダーに反応の飛行体、コードネーム、アストロゲーター型XU-23aと確認。本艦前方を15時から17時方向へ遠ざかりつつ移動。グレードマイナス3』
「……アストロゲーター……?」
 ざわ……と皆がざわめいた。狐につままれたような顔でスリナム中佐が振り返る。
「艦長……アストロゲーターというのは……これは一体?」
「申し訳ないが副長、機密だ」
 にっこり笑って大佐は言い、一転して厳しい眼をスクリーンに向けた。片手でシートの肘掛けをバンと叩き、皆の注目を集める。
「諸君、見てのとおりあれは地球外の物体……エイリアンだ。恐らく、クレアド星で第1戦隊の攻撃を受け逃走しようとしているのだと思われる。後から来る植民団の安全のためにも、我々は奴らを完全に殲滅しなくてはならない……追撃戦用意、機動第1、第2小隊出撃準備にかかれ!」
「はっ!」
 たちまち警報が鳴り響き、命令や指示が次々と飛び交った。急に活気づいたブリッジの中で、シアリーズ大佐はシートに寄りかかる。と、スリナム中佐が不可解そうな、なにやら言いたげな顔で見ているのに気付き、ちらりと苦笑めいた表情を浮かべた。
「……君にだけだ、内緒だぞ」
 放り投げられたくしゃくしゃの封筒を、スリナム中佐は危うくキャッチした。見る影もなく折り畳まれてはいたが、それは司令部からの封緘命令だった。宛名は各戦隊旗艦艦長以上となっている。
 中佐の眼は、その中の一文に引きつけられた。
――もし第1戦隊がアストロゲーターのクレアド星脱出を阻止できなかった場合は、第2戦隊ジェイナス及びホダカがこれを追撃、殲滅すべし――
「……まさか、司令部は最初から……」
 だが、スリナム中佐のつぶやきをシアリーズ大佐は聞いていなかった。再び厳しい眼をして、スクリーンをじっと凝視していた。


 ジェイナスから発進した3機のネオファムは、みるみるうちにアストロゲーター艦へと迫っていく。それに気付いたらしいアストロゲーター艦がわずかに加速するのが、レーダーから確認できた。
「オコーネル中尉、敵艦が毎秒0.2で加速を始めた。追いつけるか?」
『充分頭を押さえられますよ大尉。アラン、ウィル、データはちゃんと見てるな。奴の死角から回り込め』
『了解!』
「……奴さん、交戦する気はないようだな」
 オペレータと指揮官機の会話を聞きながら、シアリーズ大佐がぼそりと言った。
「機関が損傷してるのかもしれません。なんだか妙な赤外線のばらまきかたをしています」
「……放射線は?」
「それは大丈夫です。この程度ならパイロットが被爆することはありません」
 自席のモニタでデータを確認しながらスリナム中佐が応じる。その時、レーダー士の声の調子が急に変わった。
「敵艦からなにか射出されました。数は4。機動第1小隊と30秒後に接触します!」
『ジェイナス、こちらオコーネル中尉。アストロゲーター艦から機動兵器らしきもの4機出現。戦闘に入ります。情報を乞う!』
「ボギー、なにが出てきたんだ、機動兵器か?」
『そうです。種別はアストロゲーター型ARV-A、コードネーム“ウグ”と推定。データは以下のとおり……』
 中佐の言葉にすかさずボギーが応じ、メインスクリーンにデータを流し始めた。それを一瞥したシアリーズ大佐はオペレータを振り返る。
「このデータを中尉たちに送れ。ついでに回避パターンもふたつみっつ付け加えてやれ。使用はランダム」
「了解!」
 第1小隊と4機の敵機動兵器がレーダーの中で接触した。たちまち入り乱れてのドッグファイトが始まる。すぐさま、ビーム発射を示すノイズに混じってオコーネル中尉の悪態が伝わってきた。
『……なんだこの“推定”と“不明”ばっかりのデータは! 大尉! いちいちこんな役に立たんもん送ってこないでください!』
「推定があるだけマシだと思え中尉! 我々が相手にしてるのは未知の異星人なんだぞ!」
『未知の異星人なら、なんで通称までついたデータがあるんです!』
「それは……」
 当然といえば当然の指摘だったが、オペレータの大尉は一瞬言葉を失った。もの問いたげに艦長に眼を向けるが、シアリーズ大佐はそれを無視する。
「ボギー、敵艦の様子はどうか?」
『距離0.2光秒。依然として毎秒0.2で増速しつつジェイナスから離れていきます。グレードマイナス5』
「機動兵器を回収もせずにか?」
『加速以外の活動の兆候は認められません』
「…………」
 とまどったような沈黙が一瞬ブリッジに流れた。だが、その沈黙はスピーカーからのオコーネル中尉の声にいきなり破られる。
『ジェイナス、奴らはそっちに強襲をかけるつもりらしい。攻撃パターンの変更を求む』
「なんだと!?」
 オコーネル中尉の声には余裕が全くなくなっていた。とっさに反応できないでいるオペレータの耳に、他のパイロットたちの悲鳴に近い会話が入ってくる。
『中尉、このままじゃ突破されます!』
『分かってる! アラン、ウィル、死んでも行かせるな……大尉、早くパターン変更を!』
『イヤですよ俺は、こんな訳分からん奴を相手に戦死するのは!』
『やかましい! こんな貧弱な奴にやられてみろ、一生笑い者にしてやるからな!』
『アラン! 左だ、抜かれるぞ!』
『畜生、させるか! ……ざまあ見やがれ!』
 わずかの間に、彼我の攻守は完全に入れ替わっていた。攻撃をしかけたはずの第1小隊が、ジェイナスに迫ろうとする敵RVの猛攻を必死で食い止めている。アストロゲーター艦を襲うどころか、自分たちが突破されないでいるのが精一杯だった。
「……奴ら、決死隊か……未帰還覚悟の……」
 見ていた誰かが絞り出すように言った。
 その言葉にわずかな畏怖を感じ取ったシアリーズ大佐とスリナム中佐は顔を見合わせる。それと分からぬほど眉をしかめる中佐に向かってまずいなと言いたげに大佐がうなずき返し、顔をめぐらせると口を開いた。
「機動第2小隊出撃、第1小隊を援護させろ。全砲座、砲戦準備。航海士、加速の準備を始めたまえ」
「は……加速ですか?」
 要領を得ない顔で航海士が振り返る。シアリーズ大佐は拳でコンソールを叩いた。
「分からんのか。ここで奴らを逃がせば後で逆襲されるかもしれんのだぞ。我々軍人に向かってくるならいいが、移住した民間人を襲い始めたらどうする!」
「はっ!」
 航海士はあわてて席に座り直し、計算を始めた。それにつられるように他の者たちもそれぞれの職務をこなしだす。自分の一喝が効果を上げたのを確認し、シアリーズ大佐はそっと息をついた。
 と、その時である。
『ジェイナス! 突破された! そっちに敵2機行ったぞ!』
 オコーネル中尉の叫びがブリッジに響き渡った。スクリーンには接近するふたつの光点が映し出されている。後ろから3機のネオファムが懸命に追っているが、加速性能に違いがあるのか差は開くばかりだった。
「ボギー、敵の状況を報告しろ!」
『グレードマイナス1。敵機動兵器2機、急速接近。28秒後に射程距離に入ります』
「1番、4番、5番砲座、25秒後に砲撃開始。要員が間に合わなければオートで構わん!」
「第2小隊、発進待て!」
『いえ、出ます! ドアを開けてください!』
「無茶を言うなデイビス中尉! 今射出したら向かってくる敵の真っ正面だぞ!」
『いいポジションじゃないの。砲座のヘボ共に任せて昼寝なんかしてられないわ、出してください大尉!』
「大尉、カタパルトを使わず直出ししろ。ジェイナスの前面に展開。お客さんをたたき落とせ」
「了解!」
『グレード0。敵、射程距離に入りました』
「砲撃せよ!」
 たちまち幾本もの光の線がジェイナスからのびた。だがアストロゲーターのRVはくるくるとその間をかいくぐり、接近してくる。
『警告、警告。敵機動兵器衝突の恐れあり、回避してください』
「なにっ?!」
 ボギーの言葉にブリッジが愕然とした。シアリーズ大佐とスリナム中佐は思わず窓外を見やる。数限りない星の中に、いつの間にかひときわ輝く光がふたつ現れていた。
「撃ち落とせ! 航海士、回避しろ!」
 再びジェイナスから光がほとばしり、1機が爆発した。だが残り1機は執拗な火線を避けながらジェイナスに肉薄する。みるみる接近する光点を目の当たりにしたブリッジで悲鳴があがった。
「艦長、回避間に合いません!」
『20秒後に衝突します。衝突予想地点、ブリッジ中央部』
「退避せよ! ブリッジ総員退避!」
 大佐が命じ、全員が立ち上がった時だった。
 ネオファムが1機、ブリッジを背にしてふわりと舞い降りてきた。そのネオファムは優雅とも言えそうな動きで持っていた銃を放り上げ、いきなり全バーニアをふかして加速する。ドンという衝撃がブリッジをわずかに震わせた。
「……バカ! 戻れ!」
 思わず追おうとするようにスリナム中佐が手をのばす。だがネオファムはお構いなしにアストロゲーターに向かって突進した。その意図に気付いたアストロゲーターは何度か上下左右に機動したが、その都度ネオファムも巧みに進路を修正し、ぴたりとアストロゲーターに正対し続ける。
 そして、2機はそのまま衝突した。
「…………!」
 至近距離での爆発は、思いの外大きな衝撃波を伴っていた。ジェイナスの船体がぐらりと揺れ、自動的に修正される。華やかに広がる火球の中から、ネオファムとアストロゲーターのRVの破片がいくつもジェイナスのほうへ飛んできた。目的を果たせなかったアストロゲーターの、まるで最期の執念のようにそれらの破片は船体にぶつかり、ゴツン……ゴン……と鈍い音を立てる。
 ……いちばん最初に動きを取り戻したのはシアリーズ大佐だった。大佐は小さく「くそっ」とつぶやき、どさりとシートに腰をおろす。
 ネオファムの乗員が無事とは思えなかった。衝突の直前、背中からポッドが出たようにも見えたが、もし脱出に成功したとしていても、あのタイミングでは爆発にまきこまれているだろう。
「……あのRVの乗員は誰だ」
 おさえた声で大佐は言った。いまだ呆然としていたオペレータは、何度か呼ばれてようやく我に返り、あわてふためいて手順を間違えながら確認しだす。
「分かりました。第2小隊隊長のエリナ・デイビス中尉です」
「そうか」
 シアリーズ大佐はうなずき、黙祷するかのように眼を閉じる。最初にスリナム中佐が、そして全員がそれに倣い、静かに俯いた。しばし、ブリッジは沈痛な静寂に満たされる……。
 ……と、静寂の中にかすかな雑音が聞こえた。
 最初は途切れがちだった雑音は、次第に連続したものになっていった。やがて、ひどく聞き取りにくい、だがどうやら人の声らしいものがその中に混じり始める。
『……ちらデイ……イナス……』
 大佐の眼がぱっと開いた。
『乗機を損失……脱出……損傷が激しく……こちらデイビス中尉』
 ブリッジ内に一気に生気がよみがえる。即座にオペレータが返事をし、呼びかけた。
「中尉、デイビス中尉! 無事だったか! 今どこにいるんだ?」
『聞こえ……電気系統がいかれ……非常……テリにて……』
「中尉、中尉! くそっ……おい通信、もっとクリアにならないか? そっちにも回すから加工してみてくれ」
「やってみます」
 通信士がとびつくようにしてコンソールに向かう。ややあって雑音が少し小さくなり、代わってデイビス中尉の声がいくらか鮮明になった。
『とりあえず……ただポッド……が全滅……気密が破れ……位置不明、救助を……』
「艦長!」
「副長、すぐにポッドを捜索、回収だ」
「はっ!」
 スリナム中佐はびしりと敬礼し、自らレーダー士のもとに駆けつけると一緒になって探査を始めた。その様子を一瞥したシアリーズ大佐は表情を改め、ボギーに向かって呼びかける。
「ボギー、アストロゲーター艦はどうなった」
『2分前に本艦のレーダー圏外に去りました』
「そうか……全RVを回収後追跡したとして、もういちど補足できる可能性は?」
『不確定要素が多く正確な予測はできませんが、大体25%前後です』
「ありがとう」
『どういたしまして』
 なんとなく表情を隠すかのように大佐は額に片手を当てた。そのまま数秒間考え、顔を上げるとブリッジ内を見渡す。
「……よし諸君、ジェイナスはこれをもって戦闘を終了する。第1、第2小隊及びデイビス中尉を回収後通常任務に復帰せよ。各担当は被害を確認の上報告すること。通信、司令部へA暗号。我アストロゲーターと遭遇、撃滅を図るも失敗。アストロゲーターは追跡不可能域に離脱」
「了解しました」
「了解」
「アイアイサー」
 各所から上がる声にシアリーズ大佐はうなずき、シートに座り直した。一瞬、話相手を求めるようにちらりとスリナム中佐のほうに眼を向けたが、中佐はまだポッドの捜索に夢中になっている。大佐は苦笑し、そして低くため息をついた。
「……さて、この後はどうなるんだろうな」
 確かに、自分たちは異星人を追い出すのに成功した。だが……もし立場が逆だったら、自分たちがこんな目に合わされたとしたら、その怒りと屈辱感はいかほどのものになるだろうか。恐らく絶対このままでは済むまい。国民は総立ちになって報復を叫ぶに違いない。
 異星人のメンタリティが地球人と同じとは限らない。が、さりとて全く違うという保証もない。シアリーズ大佐は、自分たちがしてはいけないことをしてしまったような気がしていた。


そして、大佐の予感は6年後に的中する――。

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 時代的には、カチュアが実の両親と別れ別れになった地球軍のクレアド侵攻の時の話です。これにあの伝説の第3話を組み合わせて書いてみました。そしたらジェイナスとボギーが出てるだけの、バイファムとは全然関係ない話になってしまいましたが……。