Original Story of VIFAM

戦場の勇気


<2060年ピュリッツァー賞受賞写真 『戦場の勇気』>
 2060年のピュリッツァー賞に、ロージー・フロスベル氏の『戦場の勇気』が決まった。戦闘の中、動けなくなった地球人の少女をかばうこのククト兵士の写真は、ククトニアンに対するアメリカ国民の認識を大きく変えるきっかけとなった。本誌ではこの度、フロスベル氏にこの写真について語ってもらった。

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──この写真を撮影された背景について聞かせていただけますか?
「これは地球軍のククト星での捕虜救出作戦の時のものです。私は歩兵に同行して撮影をしていました。
 作戦が最終段階に近付いて、そろそろ脱出用のシャトルに乗ろうと移動を始めた時でした。50メートルほど離れた瓦礫の陰に、女の子がひとりうずくまっているのに気がつきました。
 家族とはぐれてしまったのか、怪我をしたのかは分かりませんが、このままでは取り残されてしまうのは確実でした。誰かいなっかとあたりを見たんですが、運の悪いことに私はひとりになってしまっていて……とにかく1枚撮ったらすぐに助けに行くつもりでカメラを構えたんです。すると突然、ひとりの兵士が飛び出して彼女のほうに走っていきました」

──ククトニアンだとすぐに分かりましたか?
「分かりましたし、ぞっとしました。多分、私が持っていたのがカメラでなく銃だったら、阻止しようとして撃っていたと思います。まあ、その代わりにシャッターを押したんですが。
 そころがその兵士は、女の子がいる瓦礫にたどりつくと、彼女に話しかけたんです。そして安心させようとするように軽く抱き寄せると、そのまま自分の身体を盾にしてあたりをうかがい始めました。ああ、これはあの子を助けようとしているな、と私はぴんと来ました。
 そこで私は、こっちに連れてこいという意味で隠れていた場所から兵士に向かって手を振ってみせました。私のいた所からなら、物陰を伝って比較的安全にシャトルに行くことができたんです。でついでに、非武装の民間人だというのを分からせるためにちょっと姿を見せました。彼は驚いたようでしたが、すぐに女の子を抱きかかえてこちらに駆け出しました」

──それがこの連続写真ですね。
「そうです。カメラを目立たないように物陰に置いて、オートでシャッターを入れっぱなしにして撮ったものです。おかげでひどい写真になってしまいましたが、何しろ相手は異星人ですし、カメラを構える動作が攻撃と誤解されるかもしれなかったので」

──それでもあなたは撮るんですね。
「(驚いたように)私はカメラマンですよ? シャッターチャンスに写真を撮らないでどうするんです?」

──失礼しました。でその兵士はどうしました?
「彼はまっすぐこちらに飛び込んでくると、女の子を私に押しつけてまた飛び出していきました。本当に一瞬で声をかける間もありませんでしたが、おやと思うくらい若くて線が細かったことと、真っ青な引きつった顔をしていたことが印象的でした。きっと彼も恐かったんでしょう」

──女の子は?
「ええ、おびえきってはいましたが、なだめるとすぐに平静に戻りましたし、自分の足でちゃんとシャトルに乗りました。後で世話役の地球軍の兵士に『お兄ちゃんがおばちゃんの所に連れてきてくれた』と話していましたから、自分が助けられたということは分かっていたようです。あんな目に遭ったのに意外とすぐにこの子が落ち着いたのも、助けてくれる人がいたという安心感があったからかもしれません」

──あなたはこの写真に『戦場の勇気』とタイトルをつけましたが。
「それに関しては一部で異議もあったようですね。私自身はこのタイトルがおかしいとは思いません。異星人に対して、まるで味方であるかのように勇気という言葉を使って称賛するべきではないとか、そういう言葉はお門違いでしょう。例えばこれが欧州戦線でイギリス人の女の子を助けるドイツ軍兵士の写真だったら、皆さんそんなことを言いますか?
 彼はひとりの女の子の命を救いました。それは地球人であろうと異星人であろうと勇気ある行動に変わりはありませんし、私たちはそれを素直に称賛するべきだと思います……たとえ別の写真では、彼と同じククトの兵士が地球人に暴力をふるっているのだとしても」

──そういえば、あの写真を撮ったマクガイン氏はあなたに批判的だそうですが?
「彼の言うことはもっともだと思いますよ。私もまだまだ未熟者ですし、心広く見守ってくださいとお願いするしかありません(笑)。
 ただ、カメラマンも結局、自分が残したいと思うことを撮るんです。ですから、マクガイン氏が残したかったことと、私が残したかったことは違っている、ということです。というか、それが当然ではありませんか?」

──そうですか。どうもありがとうございました。
「どういたしまして、あなたも頑張ってくださいね」


 フロスベル氏は引き続き戦場での取材を行っていくという。
 彼女がどんな物を残したいと思い、実際に残していくのかが期待される。


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 最初ククト兵士を主人公にして、次に女の子を主人公にして、結局全く関係ないカメラマンの目から見た物語になりました。
 設定としては、42話の知られざる裏話、といった感じになっています。どうもこれまで自分は軍人の話しか書いてないようだ、ということに気付いて、違う立場からアプローチをしてみようと思ったんですが……うーむ何だこれは。自分でも良くわからん。
 しかし、この戦争での地球側の報道って一体どうなってるんでしょうね。超光速航行でも半年かかるわけですし。半年前のニュースなんてニュースじゃありませんからなあ。
 案外、全く報道されていなかったりして……。