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CREGUEAN#5 "The Babilon Emblem" Private Reaction
二国間同盟に関する分析
「……気に入らないわ」
オフィスの自席で、コーヒーを前にファーナ・シェドリンはうなった。たまたま通りかかった若い女性士官が立ち止まる。
「何かおっしゃいましたか? 少佐」
「気に入らないのよ。今度の作戦は」
「作戦……ですか?」
少尉の階級をつけた女性士官は、ややとまどったようである。ファーナはそんな彼女をちらりと見上げておもむろに問いかけた。
「少尉、
NWF
との同盟のメリットはなんだと思う?」
「え……と」
しばし彼女は上を向いた。天井に答えが書いてでもあるように眉を寄せ、答える。
「
ポールクレール
を帝国が確保することができます」
「それと?」
「
NWFが帝国の存在を承認することにより
、今後交渉によって問題の解決を行なうことができるようになりますね」
「あとは?」
「2正面作戦を防ぐことができます」
「よろしい、教科書通りの解答でした」
眼だけでファーナが笑うと、少尉は少し恥ずかしそうに今度は下を向いた。
「確かに、NWFと帝国が対等な立場の時にできたなら、これはとてもうれしい同盟よね。でも今、果たしてこれは有効なのかしら」
「といいますと?」
「つまり……」
コーヒーをひとくち飲み、顔をしかめてカップを見たファーナは、それを押しやると足を組む。
「まず帝国によるポールクレールの確保。これはどっちにしろ、あとひとつきもすれば既成事実になったはずよ。なにしろ現段階ではNWFの拠点といったら
ヒスタニア
だけなんだから、別にわざわざNWFに譲ってもらわなくてもいいわけ。ま、ちょこっと人員や艦艇の消耗は防げるでしょうけれどね。そんなのは微々たるものだわ」
「はあ」
ややあいまいに少尉はうなずいた。
「それに、今のポールクレールといったらどこもかしこも難民だらけよ。治安は悪いし経済はがたがただし、もらっても帝国には負担になるだけ。逆にNWFにとってはお荷物を切り離すことができて万歳なんじゃないのかしらね。もっとも、これまでもたいして面倒は見ていなかったようだけど」
「それは……そうなんでしょうか」
「次に、NWFの帝国の存在の承認。まあ連中がこちらより強大な国家であるというのなら、大いに意味はあるわね。でもあんな弱体化した国家に認めてもらっても別になんのメリットもないわよ。むしろ帝国の方がNWFに対して手を出しにくくなる。承認って言うのなら、どちらかといえばライアーに認めてもらった方が有効だわ」
ファーナは大きく伸びをした。やや物欲しげな視線をコーヒーカップに向ける。
「最後に、2正面作戦を防ぐというもの。確かに現在、帝国は対NWF、ライアーのふたつを相手にするという危険の中にあるわ。でもそれはライアーもNWFだって条件は同じ。で、ここで問題になるのは、帝国とライアーが強くてNWFが弱いということ。さて少尉、強い国家がふたつと弱い国家がひとつあった場合、弱い国家にとって身を守るのにいちばん有効な策はなんでしょう? これは士官学校で最初に習う戦略論よね」
「強い国家同士を噛み合わせて、双方を疲弊させる……ことですか?」
「あたり。では改めて問題を繰返すわ。今回の同盟における帝国のメリットは?」
「…………」
「なかなか正直でいいわね、少尉は」
困り果てた顔の少尉を見て、彼女は再び瞳に笑みをひらめかせた。
「シェドリン少佐、からかわないでください」
「からかってなんかいないわよ」
いちど押しやったはずのコーヒーカップを引き寄せ、飲もうか飲むまいかと迷う表情で黒い水面をのぞきこむ。そしてそのまま何気なく言葉を続けた。
「今あなたが気がついたとおり、この同盟での帝国のメリットはないに等しいわ。なのに
ニコライ陛下
は熱心にこれを進められた。私が気に入らないといっているのはその点なの」
「陛下には陛下のお考えがあって行動されているのだと思います。帝国のために」
「その陛下のお考えというのがくせものね。我々には陛下の考えていることは皆目……」
「少佐!」
さすがに彼女は気色ばんだ。首をふってファーナを押しとどめるような仕草をする。だが彼女は口をつぐまない。むしろ意地悪を楽しんでいる風に言いつのった。
「皆目わからないのよ、少尉。なのに我々はある方向ヘ突き進もうとしている。陛下の指差すままに」
「お願いですから滅多なことを言わないでください、少佐。下手をすれば
反皇帝派
と見られますよ」
家柄で見れば、この若い少尉の格は「官僚貴族」のシェドリン家よりはるか上である。それだけに、皇帝に関する発言には神経質にならざるをえないのだろう。もっとも、ファーナの方が物事をストレートに言い過ぎるという話もあるのだが……。
「反帝国派ねえ」
やれやれといった調子でファーナはつぶやいた。意外と鋭い碧眼を少尉に向ける。
「あなたはまだ士官学校を出たばかりだからピンとこないかもしれないけれど……覚えておきなさい、少尉。帝国ではニコライ陛下こそが政治の中心となる。ということは、陛下の意図がわからないというのは政治の動きがわからないのと同じよ。政治がどこを目指すのかもわからないのに、私たち軍人が明確な意志を持って動けると思う?」
「それは……」
「忠誠と、盲目的にただ信じるというのはまったく別のことよ。陛下がすることを正しいと思うのはいい。でも、なぜそれを正しいと判断したのか、根拠を自分ではっきり把握しておくこと。陛下だから正しい、陛下だから信じる、なんてのは、結局陛下にかこつけて自分が考えるのをなまけているだけとしか思えないわね。普通の臣民ならともかく、考えるのが商売の参謀としてはまずいんじゃないの?」
複雑な顔で沈黙する少尉を尻目に、言うだけ言ったファーナは落ち着き払ってコーヒーカップに口をつけた。そして再び眉をしかめると彼女を見上げる。
「ところで少尉、ずっと気になってたんだけど……」
「……なんでしょうか?」
何となしに身構える少尉。それに対して彼女はカップのふちを軽く指先ではじいた。澄んだ小さな音がする。
「今日のコーヒーすごくまずいと思わない? 一体誰がいれたのかしらね」
「は?」
今度こそ、少尉は呆気にとられた顔になった。
用語解説
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NWF
……ニューウェールズ連合。オルラント帝国の宿命のライバルとも言える国家だが、近年弱体化してきている。シナリオ4ではNWFがオルラントに攻め込んできたが、今回はオルラントがNWFに宣戦布告をした。が、NWFの構成国だった軍事国家ライアー帝国が突然独立、NWFとオルラントに戦争をしかけたため、急きょライアー対策として両国の停戦、同盟が成立したというのがこのプラリアの背景。
・
ポールクレール
……ポールクレール・クォドラント。NWFが支配するニューウェールズ・クォドラントとオルラントが支配するアクレティア・クォドラントの間に位置する宙域。昔はオルラントの影響下にあったが、シナリオ4での戦争の結果NWFの支配下に置かれることになった。が、管理がいいかげんで難民が増え、アクレティアに大量流出する羽目になってオルラントが堪忍袋の尾を切らしたというのが今回の戦争の発端。
・
NWFが帝国の存在を〜
……実はNWFはオルラントを国家として認めていなかった。専制国家だからというのがその理由らしい(NWFは建前上は民主制をとっている)。
・
ヒスタニア
……ポールクレール内の恒星系。戦略的に重要。
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ニコライ陛下
……シナリオ4の皇太子ニコライの24年後の姿。当時のPC、NPCの薫陶がよろしかったせいか「臣民のために存在する帝国」というのを理想とするありがたい君主になっている。が、今でもニンジンは嫌いらしい。
ちなみに、シナリオ4のプレイヤーの間ではいまだに「ニコライくん」と呼ばれている。
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反皇帝派
……NWFの「民主主義」思想が流入した結果、帝政を廃しオルラントを民主主義国家にしようという一派が現れている。が、どう見てもこの時点ではNWFよりオルラントのほうが良い国家なのが悲しい。
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