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やたら思い入れのあるキャラクター紹介・脇役編


 ケイト・ハザウェイ  メルビン・クレーク  中尉  ラレド  フレデリック・ローデン  シド・ミューラァ 
 レアラ・ジェダ  ガイ、メル、ケイ、ユウ  その他のゲスト 




 ケイト・ハザウェイ 26歳 
(地球人・地質学者 1〜16話)

 クレーク博士の助手として第1話から登場、博士と共に、次々と大人たちが死んでいくジェイナスで残された子供たちの面倒を見る羽目になります。敵の恐怖におびえながらも当面の避難先であるベルウィック星に到着し、これで一安心かと思われた矢先にクレーク博士が敵の攻撃を受け行方不明に……。

 クレーク博士がいたころ、ケイトさんはてきぱきとした、頼れるお姉さんという感じでした。クレーク博士の忠実な助手として常に行動を共にする一方、子供たちにも良く声をかけ、積極的に引っぱっていこうとします。
 ところが、クレーク博士を失った後、彼女はがらりと変わってしまいました。一生懸命なのは前と同じですが、その態度には前のような自信は見られず、時折大人としての立場を放り出して自分の殻に閉じこもるような部分さえ出てきます。そして、万事につけ元気で積極的な子供たちに押されるようにしてオブザーバー的な役目に引っ込み、そこに安住してしまうのです。

 そしてそれは後に大きすぎる代償をもたらしました。ジェイナスが救助した異星人、ラレドから、立場上「唯一の大人」として話を聞いたケイトさんは、子供たちの両親を含む多くの地球人が脱出途中で敵に捕らえられたこと、カチュアが実は異星人であることを打ち明けられ、衝撃のあまり酒びたりとなって現実逃避に向かってしまいます。そしてその間に、カチュアが異星人だという話が漏れて子供たちの間に広まり、とうとうミリタリ少年ケンツがなにも知らない彼女に向かって「敵と一緒に飯なんか食いたくない」とわめき出す事態に発展、いたたまれなくなったカチュアはジェイナスを出ていってしまうのです。
 この期に及んでケイトさんはようやく以前の行動力を取り戻し、先頭に立ってカチュアを連れ戻しに飛び出します。ところがそこで敵の攻撃を受け被弾、子供たちにエールを残して爆発の中に消えていきました。

 ケイトさんの悲劇は、彼女が「大人だった」ことにあります。子供たちより状況が良く見えるがゆえに子供たちのように楽天的になれず、それでいて責任の重さだけがひしひしとのしかかってくる……それでも、クレーク博士が生きていた時には、進んでその責任を引き受けようとする(そして、それだけの実力もある)彼を支えとし、そのサポート役をしていればなんとかなりました。が、博士が死んでしまった後、ケイトさんは唯一の支えを失ってしまったばかりか、それまでクレーク博士が引き受けてきた責任までかぶらなくてはならなくなってしまったのです。
 26歳といえば、大人としてもまだ「駆け出し」です。ましてやケイトさんは世間知らずの研究者、しかもそれまでは「助手」としてどっちかといえば自分が保護される身分でした。そんな彼女に突然のしかかってきた重さは、彼女をおびえ萎縮させるのに充分なものでした……。

---------------------------余話---------------------------

 本編終了後に発売されたオリジナルビデオ『銀河漂流バイファム ケイトの記憶、涙の奪回作戦』で、実はケイトさんは生きていたということになっています。ククトニアンに捕らえられ、地球人捕虜として激しい尋問(というか拷問)にさらされ、記憶喪失など精神に深い傷を負ったていた彼女を救ったのは、なんと偶然同じ病院船に収容されたミューラァ。傷つけられるケイトさんを見かねたミューラァはその後彼女を連れて脱走、ククト星に潜伏し、停戦記念行事にやってくるロディたち13人に託すのでした。
 本放映時「ケイトさんの死」は13人の心に大きなものを残しました。彼女が最後に残した「みんな仲間なのよ、仲良くやっていくのよ」という言葉を彼らは折に触れて見つめ、心の糧として旅を続けてきたはずです。
 それがこうやって「実は生きていました」と片付けられることには、大きな違和感を感じます。もちろん、本放映当時はケイトさんの死は“本物”なのですが……このビデオが出たことにより「でも結局生きてたんでしょ」という醒めた思いが入ってきてしまうことも事実です。


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 メルビン・クレーク 42歳 
(地球人・宇宙考古学者/地質学者 1〜5話)

 宇宙考古学というのがどういう学問かいまいち不明なのはおいとくとして……。
 クレーク博士はまさに万能の人です。本の執筆から小型機の操縦までなんでもこなし、優れた状況判断力を持ち、決断力に富み、子供たちのために必要なことは身を呈してでもやりとげようとする……まさに保護者として、子供たちを引っぱっていく大人として非の打ち所がありません。外見がむさくるしいことが唯一の欠点といえば欠点でしょうか。
 そんな博士がいなくなった後、子供たちとケイトさんはまったく正反対の反応を示します。子供たちは「博士がいなくなった、これかは自分たちでなんとかしないと」とばかりに動き始め、ケイトさんは「博士がいなくなってしまった、私には博士のようなことはできない」とひたすら思い悩んでしまいます。実はこの裏にはケイトさんが博士にひとりの女性として想いを抱いていたということがあるんですが……逆に言えば、博士がいなくならなければ子供たちはいつまでも「自分たちが」という気にはならなかったでしょうし、結果子供だけで親を捜してがんばるという展開もなくなります。つまり、気の毒ですが、クレーク博士は最初から「死ななくてはならない」人だったのです……。

 余談ですが、博士の遺体は見つかっていません。そして、42話で軍に救出される地球人捕虜の中に、彼にそっくりな人がいるのは有名な話です。
 この男性がクレーク博士本人であるかどうか、制作側からも全くコメントはなく真相は闇の中ですが、生きていたとしたらそれはそれで説得力があり、面白かったと思います。


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 中尉 30代後半〜40代前半? 
(地球人・軍人/地質学者 2〜3話)

 この人が子供たちと深い関わりがあったかというとかなり疑問ですが……間違いなく、この人がいたから13人は生きのびることができました。
 ステーションでいきなり爆死してしまった艦長と幹部将校たちに代わり、ジェイナスの指揮を執ることになった先任士官です。名前がありませんが、1〜4話までに出てきた大人たちのうち、ケイトさんとクレーク博士、ロディやフレッドの学校の先生だったミセス・ロビンソンの3人以外は全員名前がなかったので(艦長のグレード・バーナス大佐というのは後付けの名前です)、チョイ役だったからとかそういうことではありません。むしろ、2話と3話の主役は子供たちではなくこの中尉でした。

 それにしても、もともと大佐が艦長であった艦で中尉が指揮を執る羽目になるというのは、よほどの異常事態です。多分中尉本人も、自分が艦長席に座るとは想像もしていなかったでしょう。幸い、かなりのベテランだった彼は(あの年代で中尉ということは、下士官あたりからの叩き上げであると推測できます)、混乱する部下や民間人をなんとかとりまとめてジェイナスを発進させ、異星人の襲撃をかわしてベルウィック星への軌道に乗ることに成功します。
 しかし、敵は執拗でした。もともと多いとはいえなかった乗員は次々と戦死、たちまち8名にまで減ってしまいます。とうとう中尉は避難民である民間人に頼んで砲座についてもらいますが、素人がまともに敵と渡り合える訳もなく、気が付いた時にはジェイナスがこの戦闘で生き残る確率は0.29%という数字に……。
 ここに至って、中尉はすさまじい決断を下しました。それまで部下と共に自らRVで出撃していた彼は、この0.29%という数字を聞くと、何気なく「よし、奇跡を見せてやろう」と言い放ちます。そしてかろうじて生き残っていた部下2人をジェイナスに帰し、自らはRVの自爆装置を起動させ、前方に現れた敵の母艦めがけて突入をかけるのです。
 中尉が命をなげうって賭けた0.29%の可能性、それは見事に成功し、ジェイナスは生き残ることができたのでした。

 この物語では、軍人たちは民間人を守ることをまず最優先にします。クレアド星で異星人の迎撃より民間人の脱出を優先させた准将しかり、発進する脱出シャトルをかばってARVに体当たりしていくディルファムしかり、地上からやってくるはずのシャトルを待ってぎりぎりまでジェイナスの発進を遅らせようとするステーションの司令官しかり……中尉の突入は、そういった軍人たちのまさに頂点とも言える行動でした。
 ですがなぜ、中尉にはそこまでできたのでしょうか。
 任務とはいえ、そこまでできるものなのでしょうか。
 彼は実はおかしくなっていたのではないか……突入に至るまでのシーンを見ていると、そんな考えが頭をよぎります。突然押しつけられた指揮官という重圧と、なんとしてでもジェイナスをベルウィック星に送らなければならないという責任感、そして0.29%という数字。それらのものが中尉を押しつぶし、最終的に常軌を逸した行動を取らせてしまった……彼に対して失礼だとも思いつつついついそう考えてしまうのは、そうでも思わないと、中尉の行動とそこに至るまでの心理状態が理解できないからかもしれません。

 中尉には奥さんと息子がひとりいました。突入していくRVの中、炎に包まれるコックピットで、最後まで彼の頭にあったのはジェイナスではなく、家族と過ごした楽しい休暇の思い出でした……。


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 ラレド 40代? 
(ククトニアン・職業不明 14話)

 子供たちが初めて遭遇する異星人です。ラレドという名は登場時の14話では分からず、次の15話での彼の録音で明らかになります。そしてずっと後で、彼もまたリベラリストであったことがジェダさんの口から語られるのです。
 13人+ケイトさんで地球への航行を続けるジェイナスに突然飛び込んできた救難信号。救助に向かったディとバーツが発見したのは、小型機の中で重傷を負ったひとりの男でした。
 ジェイナスに収容された男を「パパに似てる」とペンチは献身的に看護しますが、他の子供たち、そしてケイトさんも、この男がどこか風変わりなのに気付き、あやしみはじめます。そんな折りも折り、異星人の攻撃部隊が接近との報告が……。
 そして男が突然脱走します。それ見たことかと色めき立つ子供たちですが、小型機に乗り込んだ男の言葉は意外なものでした。自分が囮になって異星人を引きつけると言った彼は、止めようとするペンチに自分もまたククトニアン=異星人=敵であることを明かし、だからいなくなっても気にすることはないと言い残してレーダーから消えていきました。

 収容されたジェイナスで、集まってきた子供たちの中にカチュアを見つけたラレドは驚きます。そして、看護をするペンチからしきりと彼女のことを聞きたがります。それは実はカチュアがラレドと同族=ククトニアンだったからなのですが、ペンチにしてみれば、赤の他人と分かっていても父親に似た人が他の子のことばかり気にするのは我慢できないことでした。
「そんなにカチュアがいいんなら、ふたりでお話すれば!」……とうとう泣きだして病室を飛び出してしまうペンチ。そしてやっとラレドも、自分が相手にしていたのがほんの小さな、父親が恋しい女の子だったことに気付きます(恐らくラレドはこの時まで、ペンチを『大人同様に話が分かる相手』のつもりでいたのです)。
 そして、ペンチが「小さな女の子」であるとはっきり意識した時、ラレドもまた“子供を守る大人”としての行動を起こすのです。
 多分ラレドは、敵が現れなくてもジェイナスを出ていくつもりだったのだと思われます。なぜなら、自分がジェイナスで死ねば(すでにラレドは、自分の怪我が致命傷であることを知っていました)、彼に父親を重ねているペンチは大きく傷つくことになるからです。すでにペンチを女の子と認識していたラレドが、それだけは避けようと考えたとしても不思議ではありません。
 ですが、敵が接近してきたことで、状況は大きく変わります。
 囮になることにより、ラレドはペンチに目の前で自分の死を見せなくてはならない羽目になってしまったのです。さらに、もともと彼が助かる見込みがなかったことがペンチにばれてしまいます。事態はペンチにとって、そしてラレドにとっても最悪の展開になってしまうのでした。
 自分は敵だから、自分がいなくなっても気にすることはない。両親と会える日を祈っている……ラレドのメッセージは、ペンチが受ける衝撃を少しでも和らげようとした彼の精一杯の気遣いでした。


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 フレデリック・ローデン 50代? 
(地球人・軍人 22,23,29,30話)

 駆逐艦『レーガン』の艦長で、大佐です。異星人との戦争のために地球から派遣された艦隊の先遣部隊として、タウト星へ向かっていたジェイナスと偶然接触しました。敵地を単艦で航行するジェイナスを不審に思った大佐は通信を要求、慌てた子供たちはスコットに軍服を着せて多少の軍事知識を入れ知恵し、艦長に仕立て上げてしのごうとしますが……やっぱりというかばれてしまいます。
 そして部下と共に乗り込んできた大佐は、生存者が子供13人というジェイナスの“惨状”に驚き、彼らを保護しようとします。が、子供たちはそれに激しく抵抗、しまいには武器まで持ち出します。そして大佐はとうとう、13人がタウト星へ向かうことを許可するのでした。
 この時、ローデン大佐がタウト星行きを認める気になったのは、13人の「親に会いたい」という気持ちを汲んだというより、彼らが地球軍にとっても目の上のタンコブだったククトの中継ステーションを破壊してしまったという“実績”が大きかったようです。つまり、子供たちが中継ステーションを破壊できる――敵と互角かそれ以上に渡りあえる――だけの戦闘力を持っていることが分かったからこそ、大佐は首を縦にふったのであり、そうでなかったらいくら子供たちが脅そうが決してタウト星行きは認めなかったことでしょう。甘いと言われるローデン大佐ですが、そういう意味ではそれなりに筋の通った判断をしています。

 ローデン大佐は実は、打ち切り用に用意されたキャラクターだそうです。当時バイファムは金曜日の午後7時というゴールデンタイムの放映だったにも関わらず視聴率がのびなかったため(裏番組に『タッチ』『ドラえもん』等強力なラインナップがそろいすぎたというのが主な理由のようですが)、2クール26話で打ち切りの危機に直面していました。
 そして、ここでの“最終回”は、子供たちが大佐に保護され、実はすでに救助されていた両親と再会して大団円、というものだったようです。結局ぎりぎりで延長が決まり、13人は大佐のお世話にならなくて済んだ訳ですが……そういった事情からか、22〜23話と29〜30話ではかなり違った人物像となっています。

 タウト星でロディが異星人に捕らえられ、進退窮まった子供たちは、自分たちがタウト星に来ることを許してくれたローデン大佐に助けを求めることを思いつきます。結局、ローデン大佐の到着前にロディはジェダさんたちの反乱に便乗して脱出を果たすのですが、それでも「優しい大佐」が駆けつけてくれたことに13人は喜び、安心します。
 ところが、ここで出た大佐の言葉は彼らが想像だにしなかったものでした。連れ去られた両親を追ってククト星に行きたいという子供たちに対し、これ以上自由な行動は認められない、ジェイナスを降りて後方へ下がるようにと言い渡すのです。13人は驚き、怒り、そして「大佐もしょせんは大人」と結論づけ、これまでもそうしてきたように、自分たちだけでククト星を目指すことを決意します。
 なぜ、あれほど物わかりの良かったローデン大佐が変わってしまったのか――子供たちはとうとう気付くことはありませんが、実はこの時、大佐を取り巻く状況は前とは全く異なっていたのでした。そして、それに伴い大佐も判断を変えざるを得なかったのです。
 最初の時、地球軍はまだククトニアンという“暴漢”のいる宙域を恐る恐るのぞいている所でした。司令部は恐らく具体的な戦争計画を立てておらず、ローデン大佐の先遣部隊が持ち帰る情報を待ってという状態だったと推測できます。こんな状況では練習艦に乗った13人の子供たちがうろちょろしていてもそれほどたいした問題にはならず、むしろジェイナスがうろちょろすることで敵の注意がそらされ、地球軍の行動をカムフラージュすることができるという効果もありました。13人を行かせることは地球軍にとって利となる……ですから、大佐は彼らの言うことを聞き、彼らに情を見せることができたのです。
 ひるがえって、タウト星ではどうでしょうか。
 この時、地球軍はすでにタウト星を拠点として本格的な戦争に入ることを決定しています。これから始まるのはどちらかが倒れるまで続く殴り合いであり、これに勝つためには、相手につけこまれたりこちらが足をすべらせたりするような不安定な要素はできるだけ取り除かなくてはなりません。
 そしてこの場合、不安定な要素とは、軍という組織に属さずなにをしでかすか分からないジェイナスの13人でした。ですから大佐は彼らを排除せざるを得なかったのです……軍人として、戦争に勝つために。

 子供たちに退艦を命じ、涙ながらの訴えも聞かずに通信を切った後、ローデン大佐は人知れず苦渋の表情を浮かべます。それは、大佐が決して彼らの思いに鈍感であった訳ではないことを示しています。もしこの後、子供たちがローデン大佐とまた会うことがあれば、あるいはこの時の大佐の気持ちを聞くことができたかもしれません。
 ですが、その時が来ることはありませんでした。
 戦闘中に起こったタウト星の爆発にまきこまれ、子供たちの前で大佐は麾下の部隊もろとも消滅したのでした。


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 シド・ミューラァ 23歳 
(ククトニアン・軍人 29,31〜44話)

 13人の前に、初めて「個人」として姿を現す“敵の異星人”です。
 それまで、異星人の姿は画面にはほとんど出てきませんでした。いくつかの断片的な映像とラレド、そしてジェダさんの登場により、地球人とほとんど変わりない姿形をしていることは分かっていましたが、話の中に出てくる「敵」といえば常にウグやジャーゴ、ルザルガといった巨大で不気味な姿のARVであり、子供たち(と視聴者)にとってはまさにARV=恐い異星人でした。
 パイロットとしても部隊指揮官としても極めて優秀、暗い色をした精悍なARVを駆り、容赦なくロディたちを追いつめるミューラァは、最初、まさにそうやって培われた「恐い異星人」のイメージそのままで登場しました。「これからこんな恐い奴に追い回されるのか……」というのが、子供たち(と視聴者)の思いでした。

 ところが、彼が実は地球人との混血であることが判明した時から、その印象は微妙に変化し始めます。
 混血であることをネタに上官に揶揄され、なにも言い返せずに唇を噛むミューラァ、「俺は誇りを持ったククトニアンの軍人だ」……そう言い張り、それを裏付けようとするかのように一心不乱に任務に向かうミューラァ。そんな彼は物語の中、いつしかただの敵役ではない、どこか13人に近い立場の存在として描かれるようになっていくのです。
 同時に彼を通して、地球人とククトニアンというふたつの人種の間に横たわる深い溝もかいま見えてきます。それはこれまで「敵に負けずに頑張って親を捜そう」という気持ちしか持っていなかった子供たちに、1歩踏み込んだ「戦争」を考えさせるもとにもなるのでした。

 ミューラァを知る人は、ふたことめには必ず、彼が「半分地球人」であることを口にします。
 その様子から、ククトニアンにとっては、地球人――敵の血を引いているということはそれだけ衝撃的かつ重大なことだというのが分かります。そして恐らく子供の頃から、ミューラァはそのことに苦しめられてきたとも推測できます。
 ミューラァの生い立ちはまさに戦争の悲劇そのまんまです。ククトニアンの父親は彼が生まれる前に調査隊として派遣されたクレアド星で(年代的にはベルウィックではないかと思うんですが、ここは資料どおりクレアドとします)地球人の攻撃を受けて死亡、地球人だった母親は高まる反地球感情の中、彼がまだ物心つくかつかないかの時に軍に連行されて文字通り帰らぬ人となりました。
 両親がお互いの相手の国家に殺されるという、恐らく考えうる限り最も悲惨な形で保護者を失ったミューラァは、敵との混血という差別と蔑視の中で成長し、精一杯の選択として、軍人となり国家の後ろ盾を得ることで……そしてその中で力を発揮することで……周囲からククトニアンとして認められようとします。
 この時、地球人の血と折り合いをつけてやっていこうという選択肢は彼にはありませんでした。それは彼の母親の運命が表しているとおり、地球人はククト社会では物理的に生きていけなかったからに他なりません。後に良く言われる「地球人とククトニアンの架け橋として……」というのは、母がたどった末路を見てきたミューラァにとっては酷すぎる要求なのです

 ともあれ、そんな風にしてミューラァは軍人の道を歩み、ククトニアンとして生きていこうとします。が、軍のほうは彼を決して認めようとしませんでした。建前上、実力に見合うだけの階級と立場こそ与えましたが、なにかと言えば彼が混血であることを持ち出してあからさまに不信を表します。そしてとうとう、半ば陥れるようなやりかたで反乱分子の汚名を着せ、排除しようとするのです。
 唯一の居場所を失った……そう思った時、ミューラァにできたのは、自分を裏切った「味方」をめがけまるでこれまでの復讐のように突入していくことだけでした。

 最後の突入の時、ミューラァは自分の生き方を悔やんでいた……解説には良くこう書かれています。確かに彼はカチュアに「俺のような生き方はするな」と言い残しています。
 ですが、本当に彼が悔やんでいたかというと、若干疑問に思います。むしろ、かっとなって後先考えずに突入していった……そんな印象のほうが強く感じられるし、彼らしい気がするのです(ミューラァには瞬間湯沸かし器的なところが確かにあります)。なにより「悔やんだ」のひとことで捨ててしまえるほど、彼の人生は軽いものではなかったはずです。そして、本人もそれを分かっているはずなのです。
 悔しくて悲しくてどうしようもなくなってはいたけど、悔やんではいなかった……彼の最後の心境はそうだったと思います。

---------------------------余話---------------------------

 本編終了後に発売されたオリジナルビデオ『銀河漂流バイファム ケイトの記憶、涙の奪回作戦』で、実はあの後ミューラァは「一発くらって意識を失い」ククトの病院船に収容されていたということになっています。そこでたまたま地球人捕虜として拷問を受けるケイトさんを知った彼は、彼女を連れて軍を脱走、ククト星で新たな生活を始めているのです。
 この話ではミューラァは、ククト星郊外でホテルを経営し、さらになんだかケバい不思議な(としか表現しようがない)女性が「恋人」としてそばにいる……自称か相思相愛かは知りませんが……という形で出てきます。どう考えても物語上必然性のない(むしろ、こうしたために構成で製作が苦労する羽目になっているのが見える)悪ノリとしか思えない設定であり、これにより、本編であれだけ丁寧に描いてきたミューラァの存在が一気に薄っぺらになってしまった感があります。
 ミューラァが生きていた、ということについては、特に異存はありません。ケイトさんと違い、本編でも死んだかどうかはっきり判別できないような描き方をされていた以上、なにかの機会に再登場ということはあったでしょう。ですが、出すならやはりそれなりに説得力のある背景を持ってくるべきだったはずです。
 ミューラァをこうしたことで、制作側のこの話に対する「適当さ加減」が図らずも露呈してしまったと言えるでしょう。


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 レアラ・ジェダ 20代後半〜30代前半? 
(ククトニアン・リベラリスト 27〜29,39〜46話)

 地球人との平和を願い、ククト政府と対立する組織の一員です。ジェダさんは中でもかなりの発言力があり、リーダー格だと思われます。ちなみに男性です。
 実は、ククト本国の政治事情は、物語の中ではほとんど触れられていません。従って、リベラリストと称するジェダさんたちの組織が本国ではどういう立場なのか、それは分からずじまいとなりました。ジェダさんの言葉から判断するに、ほとんど発言の自由のない世界で自由を求めて政府と対立、戦っている集団というイメージですが、なにしろ彼本人が思いこみの強いタイプな上に(ナントカ主義者という人たちには良くあることですが……)子供相手の自己申告ですからどこまで真実かは分かりません。
 なぜ分からなかったのか、それはリこの組織の正体が、子供たちにとってどうでもいいことだったからです。13人にとっては、ジェダさんは見知らぬククト星での心強い味方であり、親探しを手伝ってくれる良い人であり、それで充分なのです。
 極端な話、この組織は実はアルカイダのようなテロ組織であり、地球人との平和を望んだのは、地球の軍事力と手を組んで政府を圧倒、ククトの支配者になろうという思惑があったためと、そういう見方もできます。でも、この話で最も重要だったのは、この組織がどういう組織かではなく、どんな風に子供たちを助けるかでした。だから組織そのものについては、別に描かれなくても良かったのです。

 そしてジェダさんも子供たちの信頼を裏切ることはしませんでした。彼は無条件で13人を保護し、親探しに全面的に協力し、最終的には地球軍のもとに送り届けます。その裏には、彼らを助け感謝されることで地球軍と良好な関係を築こうという打算がちらちら見え隠れしないでもないですが、でもジェダさんは、子供たちのためにできうる範囲内で最大限の努力をしていました。
 ですがたったいちど、ジェダさんが子供たちを裏切りかけたことがあります。捕虜だったミューラァがカチュアを人質に取って逃亡した時、彼はミューラァをカチュアもろとも射殺する許可を部下に出します。直後に激高したジミーに噛みつかれ、悲鳴をあげるというギャグっぽい展開になってしまったためにあまり強く印象に残ることはありませんでしたが、これは子供たちとの間に決定的な亀裂を生じさせかねない決断でした。
 恐らく、これまで子供たちを守ってきた大人たち……中尉やクレーク博士、ケイトさん、ローデン大佐……だったら、もし同じ状況に追い込まれたとしてもこんなことは絶対に言えなかったはずです。このシーンで、ジェダさんがそれまでの大人とは「違う人種」であることが浮き彫りにされ、同時にこの世界にはふたつの物語――親を捜す13人の物語と、それとは無関係に展開する大人の冷たい戦争物語――があることが印象づけられたのでした。

 ジェダさんは、ある種ミューラァの対極にある人物です。ミューラァが自分を押し殺してまでククト社会に生きる場を求めようとしたのに対し、ジェダさんは自分の思想を守るためにあっさり(かどうかは分かりませんが)ククト社会を飛びだし、ゲリラに身を投じます。冷徹そうに見えて実は感情で動く傾向のあるミューラァに対し、人当たりが良く率直でおっとりした印象すらあるジェダさんは、その裏に何事にもまず自身の理想と組織を最優先させる非情さと計算高さを持っています。このふたりが直接話をするシーンはありませんでしたが、きっとめちゃくちゃ相性悪いだろうなあと思うのはこれは余談。


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 ガイ、メル、ケイ、ユウ ガイ12歳、メル10歳、ケイ8歳、ユウ6歳 
(ククトニアン・親がリベラリスト? 35〜38話)

 政治犯としてククト星の収容所に送られた両親を探してはるばるやってきたククトニアンの子供4人組です。
 この子たちが子供だけでどうやってククト星まで来たか、13人と出会うまでなにをしていたか、物語中では一切不明です。つまり、うがった見方をすれば「初めてのククト星」という緊張感も一段落し、ミューラァとの追いかけっこもそろそろワンパターンの兆候が見え、ここらで何話か引っ張れる新しいネタをということで急遽出てきたキャラクターたちだという推測ができるわけです。
 にも関わらず、この子たちと13人とのエピソードは実に印象深いものでした。食料を盗もうとして見つかり、ケンツを人質にして逃げようとするもあえなく失敗。双方警戒心いっぱいで始まった出会いから、お互いに「〜してもらったからお返しをしよう」をくり返して徐々にうち解け、仲良くなっていく様子は、その間のまるでキャンプ旅行のような雰囲気もあいまって(といっても途中でミューラァの部隊の襲撃を受けたりするんですが)本当にわくわくしました。
 そして13人は彼らに協力し、収容所から彼らの両親を助け出すことにします。紆余曲折を経てこの計画は成功し、ガイたちの両親は奪った輸送機でククト星を離れるのです。
 ゲストキャラである以上、いつかは別れが来るのは当然です。ましてやこの子供たちは、前述したようにバイファム本来のストーリーとは何の関係もない、エピソード作りのためだけに出てきたキャラクターたちです。ですが彼らが去る時、奇妙な違和感があったのも事実でした。いつの間にか、この子供たちも13人と一緒にずっと旅をするかのような……「13人」ではなく「17人」がひとつのユニットであるかのような、そんな印象を抱くようになっていたのです。
「わすれないきみのこと」……別れ際、ガイはケンツに自分の鞄を渡し、ぎごちない地球の言葉でそう言います。そして発進していく輸送機を「元気でなー! 大事に使うよー!」と追いかけるケンツ。この別れのシーンは、最終回と並んでバイファムの名シーンとなったのでした。


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