無重力の映画見てきた

「ゼロ・グラビティ」を見てきた。
「日本よ、これがハリウッドだ」って感じ。
 実は、宇宙でのトラブルの話を作るのは、それほど難しくない。「デブリ」「宇宙漂流」「酸素不足」「真空暴露」を適当に組み合わせていけばできあがってしまう。実際、この映画も、サンドラ・ブロック演じる宇宙飛行士ライアン・ストーンが、次から次へとこれらのトラブルに見舞われる話だった。
 ただ、話は簡単に作れても、それを映像にするのは容易ではない。「誰も見たことのない世界」なら、制作側が勝手に決めて「こういうものだ」とするのが可能だが、今の時代、宇宙の映像やシャトル、ISSの風景などは一般人も普通にテレビで見られたりするから、嘘は描けない。
 その点、この映画は文句なしに及第点。セットやCGはもちろん、人や物の動きに至るまで、きちんと作り込んである。驚いたのは、無重力でのアクションにNASAの微少重力実験機(Vomit Comet)を全く使っていなかったこと。確かに、あの機体でできる無重力状態は数十秒程度なのに、なんでこんな長い映像が撮れるんだろうとは思っていたのだが、実は全部特殊なワイヤーフレームだったらしい。Vomit Cometを使わなくてもここまでできちゃうとなると、この後の宇宙映画は苦しくなるね。
 もっとも、真空暴露された死体、これは明らかに変だった。真空暴露死体なんてこれまで誰も見たことがないんだから、それこそ「誰も見たことのない世界」でどうにでもできるといえばできるのだが、少なくとも、どういう死に方をするかというのはある程度推測されているわけだし、どうせやるならそれに添ったものにしてほしかったとは思う。とんでもなく恐い物にはなるだろうけど。
 あと、唯一のお色気シーンを狙ったのか知らないが、サンドラ・ブロックが気密服を脱いだらいきなりタンクトップとショートパンツだったのはどうなのか。冷却装置つきのアンダーウェア着るんじゃなかったっけ?
 登場人物は事実上ライアン・ストーンのサンドラ・ブロックと、ミッションコマンダーのマット・コワルスキー役のジョージ・クルーニーのふたり。しかも半ばからはライアンひとりになってしまう上に舞台は狭い司令船の中とかステーションの中とかそんなのばっかりで推移する。この状況で観客をダレさせず引っ張っていくブロックの演技力はすごい。クルーニー演じるコワルスキーはどちらかというとステレオタイプのベテラン指揮官だが、彼の堅実な安定感がなくなった後、ライアンの不安定さがいっそう強調されて効果抜群という感じ。
 あと、この脚本を書いた人は、レイ・ブラッドベリの「万華鏡」を読んでると思った。
 残念なのは、最後を派手に飾りたいと思ったのか、ラストをどう考えても不自然な大気圏突入にもっていってしまったこと。ステーションが落下するのが確実なら、搭乗員は地上に被害を及ぼさないよう、大気圏内で可能な限り燃え尽きる軌道を設定するはずで、それと同じ軌道で突入して無事に地上にたどり着けるわけがない。この流れなら、無理して突入させなくても、そのままステーション内で救助を待ち、迎えのシャトルに救助されるという展開で観客は充分納得したと思う。

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