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CREGUEAN#8 "Blaze of Glory" Private Reaction5
『ラージ』暴走
■まえふり■
“イヴ”とは、とある太陽系の座標だった。アダムと呼ばれるその太陽系へ向かったディ・ウォーレン一行は、密林の中で人類以前の超古代文明の遺跡を発見する。未来を予言するというその遺跡には、人類の統合の象徴たる『連合条約』崩壊に関する記録があった。もしこれが公になれば、連合条約の権威を背景にコルディアに進出したGIGは大ダメージを受ける。エーリッヒが“イヴ”を手に入れようとした理由はこれだったのだ。
一方、殺されたザジ・ホークの遺志を継ぐ者たちは、捜索の上『ザンジバル』要塞を発見、侵入に成功していた。だが一足早く現れたエーリッヒの部下が彼らより先に『ザンジバル』を起動し、惑星アダムの破壊を命じる。
同じ頃、連合条約駆逐艦『ラージ』ではひと騒ぎ持ちあがっていた。艦長キース・ブライアンが友人ザジの仇を討つために『ザンジバル』行きを主張、部下から艦長職を解任されたのである。だがその直後、『ラージ』の中枢コンピュータが暴走、入力を受け付けないまま進路をある方向へと定め動き出したのである。
その先に『ザンジバル』があることを、『ラージ』の乗組員はまだ知らない。
緊急警報を聞いたアレックスがブリッジに飛び込んだ時、マリアはおろおろしながらコンソールからコンソールへと走り回っているところだった。
「どうしたんだ?!」
「『ラージ』が……『ラージ』が急に動きだしたんです! そんな予定ないはずなのに!」
「アーニャから連絡は?!」
「ありません!」
見えていないのが信じられないほどの素早い動きで、アレックスは自分のシートにすべりこんだ。ヘッドセットをつけて音声に変換されたデータをモニターすると、確かに連合条約軍駆逐艦『ラージ』は加速を始めている。
「……こちら『レディ・ドラゴン』」
通信機のスイッチを入れ、彼は呼びかけた。
「『ラージ』に通信を求む……『ラージ』、応答せよ『ラージ』! ブライアン中尉! アネリース!」
そうしている間にも、『ラージ』が増速する様子は刻々とアレックスの耳に入ってきていた。だが、通信機のほうは沈黙したままである。一体なにが起こっているのか、状況がさっぱりつかめない。
「アレックスさん、『ラージ』にはアネリースさんが乗ってるんですよっ! どうすんですかっ!」
自席に戻ったマリアがやかましく騒ぎ始めた。アレックスが来たのでひと安心したらしい。
「まさかあの若造中尉、このまんまアネリースさんをさらって……」
「ちょっと黙っててくれ、マリア」
少なからずいらついてアレックスは彼女を遮り、その口調に驚いたマリアはぴたりと口を閉じた。つかの間の沈黙を利用して彼は次々とスイッチを操作し、耳から入ってくる情報に神経を集中する。いくつもの異なるデータを同時に音声にしてヘッドセットに流すというやりかたは、常人にはただの重なり合った雑音にしか聞こえないだろうが、常日頃からこのシステムを使いこなしているアレックスにとっては、ひとつひとつの音を聞き分け、分析するのは造作もないことだった。
どうやら『ラージ』は本気でここから離脱しようとしているらしかった。この様子だと遠からず
フォールドかジャンプ
に入るだろう。通信には依然応答しないが、トラブルの兆候は認められない。意図的な通信封鎖だろうか。
だとすれば、これはれっきとした敵対行動である。
……だがひとつ不可解なのは、
ドッキングしている船
を切り離した様子がないことだった。『レディ・ドラゴン』が荷おろしした後、入れ代わるようにやってきた密輸船である。もしなにかあったのなら、機動の邪魔になるそんなものは真っ先に切り離すはずなのだが、なぜかいまだにくっつけたままらしい。
「アレックスさん……アレックスさん!」
我慢しきれなくなったらしいマリアが、今度はやや控えめながらもまた騒ぎ出した。
「どーすんですかアレックスさん。このままじゃ置いてかれちゃいます。フォールドに入られたら追っかけるの大変ですよ!」
「分かってる……追跡だ、マリア」
「はいっ!」
マリアは勢い良く自席から飛び出した。主のいない船長席に飛びこみ操縦系を起動する。彼女の手がコンソールを走ると『レディ・ドラゴン』は『ラージ』を追ってゆっくりと動き出した。
一方、通信機を受信待機にしたアレックスは、一瞬考えた後でやはりアネリースの席にある武器制御系のコントロールを自席に引っ張り込み、チェックを始めていた。失明以来久しく触っていないシステムだったが、扱いには自信がある。ただ難点は……
「マリア」
「なんですかー」
慣れない操艦に悪戦苦闘しながらも、のんきな声でマリアが応じた。努力の甲斐あってか、今のところ『レディ・ドラゴン』はなんとか『ラージ』に追いすがっている。
「忙しいところ悪いが、武器制御のサポートもしてくれないか?」
「へ?」
「ナビゲートを頼む。俺じゃ追いきれないから」
「……『ラージ』と戦闘するんですか?」
「奴らがこのままトンズラする気ならな」
不安げな彼女の声に、なるべくさりげなく聞こえるようにアレックスは言った。だがその手は固く握りしめられている。
「いいですよー。でも巡航になるまで待っててください。航路計算もしなくちゃならないし、ちょっと手が離せないと思うんです」
「……分かった」
幾分気をそがれてアレックスは座席にもたれかかった。が、ふと思いついて『ラージ』の予想進路をコンピュータに計算させてみる。もしかすると連合条約軍の拠点があるX305宙域へ向かうのかとも思ったのだが、出たのは正反対の方向だった。だからといってアネリースが安全だという保証は全くないが、とりあえずほんの少し彼は安心する。
「俺たちをなめるんならなめていろ。後で後悔させてやる……」
低いそのつぶやきは、マリアの耳には届かなかった。
宇宙で生まれ育ったアネリースにとって、漆黒の星空はごく身近なものである。だが、『ラージ』の展望ラウンジから見る星はどこかよそよそしく、見慣れない印象だった。
もちろん、錯覚だというのは分かっている。もし変わって見えるとしたら、それはきっと窓の材質が『レディ・ドラゴン』と違うためだろう。だが、そう結論してもなお、彼女の淋しさは消えなかった。
あれから数日、『ラージ』は相変わらず暴走を続けている。
アレックスとマリアのことだから、きっと『ラージ』を追っているだろう。だが、電子機器一切が使用不能に近い現在、通信はもちろんエアロックを使って脱出することすらできなかった。これが『レディ・ドラゴン』なら万一に備えた手動の装置もあるのだが、この艦にはそれすら備えられていないらしい。
コンピュータシステムを過信していたか、他に理由があるのかはわからないが
。
前から胡散臭いとは思ってたけど
、とんだ最新鋭艦だわ、とアネリースは思う。
ふと、人の気配を感じて彼女は振り返った。『ラージ』副長(『ラージ』の良心と彼女はひそかにあだ名している)の
ルース・ドットマン
が近づいてくるところだった。
「暇そうだな」
開口一番、そう言われてアネリースは肩をすくめた。別に悪気がないのは知っているし、事実なのだからしょうがない。船のない船長というのは世界でいちばん役に立たない人種なのだ。
「『ラージ』のご機嫌は?」
「絶好調らしい。俺たちの言うことなんか聞きやしないよ」
「まるで誰かさんみたいじゃない」
「誰かさん?」
「あなたの上官の艦長さん」
アネリースの言葉に、ルースはわずかに苦笑すると顔を手でこすった。どうやら相当疲れているらしい、と彼女はこの副長に同情する。
「安息の時はあまりに短かった、って感じね」
「……なんだそれは」
「キースよ。もしあの時彼が『
連合条約軍のために要塞の確保をはかるのが我々の義務だ
』とでも言えば、それがどんなに危険なものだったとしてもあなたたちは逆らえなかったはず。だけどキースが親友のことなんて持ち出したおかげで、私的な暴走として却下できた。これで故郷へ帰れて一安心だったはずなのに……違う?」
ルースは答えなかった。代わりにアネリースに問いかける。
「あんたが元海賊だっていうのは、本当か?」
「本当よ」
アネリースはあっさり認めた。
「私は海賊。『ヴァイキング』という海賊団の元若頭目。もっとも今は解散してるけれど」
「なんで俺たちに近づいた」
「さあ」
「ごまかすつもりか」
ルースの顔が険悪になった。アネリースはもういちど肩をすくめると、そばにあったベンチに腰かける。多分彼ほどではないが、アネリースも疲れていた。肉体的にではなく精神的に。
……自分の船に戻れないというのは、なんとつらいことなんだろう。
「ごまかしてるわけじゃないわ。
最初は助けられた恩返しと思ってたんだけど、最近良くわからなくなったの
。同情か、興味か、コネ目当てか……だから好きなように解釈してちょうだい。私はどれでも構わない」
「都合のいい答えだな」
「自分でもそう思うわ」
「…………」
今度はルースは困った顔になった。どうやら自分の懸念が彼女には通じていないと思ったらしい。
「アネリース、俺たちはこれ以上厄介ごとをかかえこみたくないんだ。海賊とつるんだなんて思われたら……」
「分かるわ。だからせめて黙ってるつもりだったんだけどね」
あの
小悪党
にばらされてしまった。その時の不愉快な様子を思い出してアネリースは舌打ちする。この副長が割り込んでさえこなければ、娼婦呼ばわりした代償を奴に払わせてやることができたのに。
いまだ残る怒りを押さえ、アネリースは足を組んだ。
「なんだったら今後、捕らえた海賊として扱ってもらって結構よ。動機はどうあれ、アネリース・フィレスは『ラージ』を……あなたたちを支援するって決めたんだし、一旦決めたことはなにがあろうとやり遂げるのが私の身上。だから私そのものがあなたたちの不利になるっていうんなら、どうとでもしてもらっていいわ」
「たいした覚悟だな」
「当たり前よ」
アネリースはにやりと笑う。柔らかな深窓の令嬢めいた美貌が、その時だけ豪胆な女海賊に変わった。
「カタギの人とまともにつきあおうってんだから、このくらいの覚悟は必要でしょ」
「……なるほど」
納得したのかどうかは分からないが、とりあえず彼はそれしか言わなかった。そのままきびすを返し、去ろうとする。
「そうそう、思い出したけど」
彼女の声に、ルースは足を止めて振り返った。
「惑星オーパーでキースがぶらさげてたケバい女っていうのは、多分私よ」
「……聞いてたのか」
「休暇中にキースがソースヘブンで騒ぎを起こしたことがあったでしょ。あの時、オーパーで彼と接触して足を提供してやるって話をもちかけたことがあるの……断られたけどね。それを見られたんでしょ。全く、同業者の顔も覚えないなんて最低の密輸屋だわ、奴は」
「……本当か?」
「もちろん」
彼の口調は露骨にあやしんでいたが、アネリースはしれっとしてうなずく。
「まあそんなわけで、あの神経質で潔癖な航海長さんに教えておいてあげて。私あの人苦手だから」
「…………」
ルースの顔にまた苦笑が浮かんだ。そして彼は分かったと答え、今度こそラウンジから出ていく。大きな背中が消えるのを確認したアネリースは、頭をめぐらせ再び星空を見つめた。
そして、静かにため息をついた。
用語解説
フォールドかジャンプ
……どちらも超光速航行。方法としては、空間の裂け目を伝うことで距離をかせぐというもの。フォールドはジャンプより遥かに性能がいいが、テルモナイトという特殊な鉱物が必要になるのでとっても高価。そのため、フォールドができるのは軍艦か豪華客船などに限られる。
ドッキングしている船
……他のPCの船がドッキング中だった。ちなみにこのPC、アネリースを「艦長専用の娼婦」と言って彼女の怒りを買っている。詳しくは後述。
コンピュータシステムを〜
……そのくらいの冗長性はあって当然というのをマスターが知らないというのに1票。
前から胡散臭いと〜
……これは本当。前々回のアクションにちゃんと書いてある。もっともマスターは無視したのだが。
ルース・ドットマン
……『ラージ』副長。女みたいな名前だが男性。ごく常識的な落ち着いた黒人の大男で、言動から察する限り叩き上げのようである。
Bブランチでは好感度ナンバー1。
連合条約軍のために〜
……どうしてそういう論法を使わなかったのか、わたしは不思議でしょーがない。
最初は〜
……いきあたりばったりでアクションをかけているとこうなりがち。気をつけましょう。
小悪党
……上記のPC。実はエーリッヒに依頼されて発信器つきの武器を『ラージ』に持ちこもうとしてやってきた。が、あやしんで問いつめるアネリースを娼婦呼ばわりしたため激怒した彼女に殺されかけ、ルースに救われている。
惑星オーパーでキースと〜
……これも上記PCが言ったこと。もちろんでまかせであるが、どうやら信じた乗組員もいるようなので(↓の人とか)こうつくろってみた。
……って、クレギオンじゃプラリアはアクションと認められないんだよな。
神経質で潔癖な航海長
……ディオル・ドナー。なにかとキースに反発していた士官。小市民的ですぐヒステリックになるが、なんか憎めない人。というか、キースがいちばん困ったちゃんなのである。
ちなみにアネリースが嫌いらしい。
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