CREGUEAN#8 "Blaze of Glory" Private Reaction7
牙をむく竜

■まえふり■
連合条約崩壊のことが記された惑星『アダム』は、要塞ザンジバルの攻撃により破壊された。
一方、暴走を続ける『ラージ』の正体が、エーリッヒ・ヴィッテンベルクと接触した者によって明らかにされる。『ラージ』は実はザンジバルの端末であり、アダム破壊という“役目”を終えたザンジバルをもとろもに自爆させるキーでもあったのだ。なんとかランデブーを阻止しようと、ガーダー、密輸船、『ラージ』暴走の知らせを受けて駆けつけてきた連合条約軍までが『ラージ』に戦いを挑むが……
我が眼を汝が眼とせよ
我が耳を汝が耳とせよ
我が命を汝が命とし
汝が魂を我が魂に継げ……
宇宙海賊団『ヴァイキング』で使われる死者への手向けの言葉
『ラージ』との対決は熾烈を極めた。
この破壊力を密輸船狩りに使ってれば、あっという間に一掃できたのにね。とアネリース・フィレスが感心したほどである。まさに当たるを幸いともいえる攻撃にさらされ、多くの艦船が撃破、あるいは致命的な被害を受けた。
中でも悲惨だったのは、連合条約軍の司令部であるイカルスだった。『ラージ』乗組員の危機を知って駆けつけてきたアステロイドを改造したこの基地は、自ら囮となって『ラージ』の攻撃を受け続け、爆沈したのである。司令官ウェイン・ブライアン大佐……キース・ブライアンの父親でもある……以下、脱出できた者はいなかった。
最終的にはガーダーの捨て身の体当たりでようやく『ラージ』破壊には成功したものの、その時までに無傷な艦船は1隻も残っていなかった。いや、より正確に言えば、すべての艦船がまだ動けるのが不思議な程の状態に陥っていた。
それは『レディ・ドラゴン』とて例外ではない。
「……やれやれ、こんなすごい表示を見たのは久しぶりだわ」
モニタで被害状況をチェックしながらアネリースはぼやいた。
「一体修理にいくらかかることやら」
「まあ、航行に支障がないだけあっちの船よりはましだろう」
なにやらコンソールを操作しつつ、アレックスが律儀に応じる。正面の共用スクリーンに映し出された星空の中には「あっちの船」こと『オーディーン』が遊弋しているのが眺められた。一見ごくのんびりした風景だが、中では大騒ぎが繰り広げられているはずである。なにしろグロッキー一歩手前の『ラージ』の全乗組員を救助収容している上に、推進機関にその『ラージ』主砲の直撃を受け、一時航行不能にまで陥ったのだから。先ほど交わした通信ではとりあえず応急修理は完了しているとのことだったが、どのくらい完了しているかについては先方は明言を避けていた。
「大丈夫なのかしらねぇ、連中とまともに当たれるのは『オーディーン』だけなのに」
「やれなきゃ後がないんだ。いくらきりまわしてるのが素人だってそのくらいは分かってるだろうさ」
「まあね」
アレックスの言葉にアネリースはうなずき、手元のディスプレイにレーダー画像を表示すると接近中の光点を確認した。その時、栄養飲料のパックをいくつか抱えたマリアがブリッジに入ってくる。
「アネリースさーん、なんだかキッチンがげちょげちょになってますー。とりあえず無事そうな食べ物っていったらこれくらいしかー……」
「やっぱり……」
アネリースはため息をついた。高加速での機動などしばらくしなかったものだから、キッチンを片付けておくのを忘れたのである。惨状を目の当たりにするのがいやでマリアを行かせたのだが、彼女の表現から察するに被害は想像以上らしい。
修理は人まかせにできるが、掃除は自分たちでやらなくてはならない。彼女はげんなりした顔になるとマリアから飲料を受け取った。パックの封を切っている隙に、マリアは表示されたままのレーダー画像をひょいとのぞきこみ、おびえた顔になる。
「これ全部、連合条約軍の艦……?」
「そうよ。まだ接触するまでには時間があるから安心しなさい」
「そーいう問題じゃないですアネリースさーん、恐くないんですか? 『ラージ』1隻だけでも死にそうになったのにー」
近づいてくるのは、連合条約軍ディオニクス社直属艦隊……つまり、エーリッヒ・ヴィッテンベルクの艦隊だった。『ラージ』を利用したザンジバル要塞破壊に失敗し、進退窮まった彼が最後の手段に出てきたのである。こういうあたり、策士を気取っていても底が浅い、とアネリースは内心冷笑した。
だが、やってくるのが戦闘艦ばかり40隻となれば、そうそう冷笑してばかりもいられない。
「そりゃあ恐いわよ。できることなら逃げ出したいもんだわね」
「じゃあなんで逃げないんですかっ!」
「落ち着きなさいマリア。『レディ・ドラゴン』じゃ連中の加速にかなうわけないのは分かってるでしょ。追いつかれて後ろから一方的にやられるのがオチよ」
「そ、それはそうですけどー……」
「アーニャ、『オーディーン』から通信だ」
心細そうなマリアのつぶやきををアレックスが遮った。アネリースが返事をすると、一瞬おいて共用スクリーンが星空から若い男の姿に切り替わる。
「で、私の提案は検討してくれた? ディ・ウォーレン」
トレラディン・レジスタンスのリーダーに向かって、挨拶抜きでアネリースは言った。そのせいかどうかは知らないが、彼はなんだか不愉快そうな顔をする。
「確かに、成功すれば一発逆転だが……成功する見込みが一体どのくらいあるんだ?」
「未知数」
しれっとしてアネリースは応じる。あしらわれているのが分かったのだろう、ディはますます不愉快そうな顔になってなにか言いかけたが、彼女は手をふってそれを制した。
「でもゼロじゃないわ。それに、万一失敗しても連中の注意は私たちに向く。その隙になにかやってくれることを、逆にそっちに期待しちゃいけないかしら? 勇敢なる革命家さん」
「…………」
アネリースの出した提案は途方もないものだった。
『レディ・ドラゴン』が敵艦隊の旗艦に強襲をかけるというのである。
呆れるディたちに向かって、彼女は自分が元海賊であることを明かした。そして、この戦法が自分たちにとっては十八番であるということも。ただし、普通は単艦ではなく集団でやるものだとは言わなかったが。
「白状すると、損するだけだから今まで戦闘艦相手にしかけたことはないんだけどね。包囲だの十字砲火だのしか知らない軍人さんたちの意表をつけるってだけでも、効果はあると思うけど?」
「……分かった」
しばらく考え込んだ後、ようやくディは口を開く。
「ただし、支援はできないぞ」
「別にあてにしてないわ」
あの艦隊の相手をしててくれれば、それで充分。アネリースはそう言って赤銅色の髪をもてあそんだ。要するに『オーディーン』を囮にするというわけである。それを悟ったディは今度は複雑な顔になった。どうやら怒ったものか笑いとばしたものか困ったらしい。
「どうしたのそんな顔して。なにか文句かご意見でも? 革命家さん」
「……革命家というのはやめてくれ」
憮然としたその表情に、アネリースは思わず笑い出しそうになるのをこらえる。別に彼が嫌いなわけではないが、根暗なくせに気取りかえった、いかにもお育ちの良さそうなこの青年をからかうのはなかなか面白かった。なんだかんだ言っても直球勝負の軍人であるキース・ブライアンではこうはいかない。本気に取られて逆にこっちが気まずい思いをするのがオチである。
まあ、そこがあの坊ちゃん将校のある種憎めない部分でもあるわけだが。
「文句も意見もないなら、失敗しても成功してもお互い恨みっこなしってことでお願いするわ、理想主義者さん。それじゃ……」
通信を終わろうとしかけ、そこでふと思い出したようにアネリースは逡巡した。ほんのわずかの間の後、改めてスクリーンを見直す。
「そういえば、ブライアン中尉はそこにいる?」
視界の隅に、マリアが自席でぴくんと肩をいからせるのが見えた。後でまた当り散らされるなととっさにアネリースは覚悟する。画面の中ではディがあっさり首をふった。
「部下たちの様子を見ている。何か用でも?」
「別に……『レディ・ドラゴン』より以上」
……『ラージ』から最後の通信をした時、キース・ブライアンの顔つきには、以前のだだっ子中尉のものとは違うなにかが現れているような気がした。単に災難続きで憔悴したためなのか、それともいわゆる昔父が言っていた「男の子にとって絶体絶命は成長のチャンス」だったのか、それを確かめたかったのだが……不審気なディを共用スクリーンから消し、彼女は改めて手元のレーダー画像を眺めた。
残された時間はわずかしかない。この状態でどこまでこちら有利にもっていけるのか考えなくてはならない。
そして、できうることならこちら側から出る死人を最小限に押さえる方法も……生存者の数が多ければ多いほど、エーリッヒ・ヴィッテンベルクには困ったことになるだろうから。
生存者……。
「……アレックス」
「ん?」
唐突な呼びかけに、アレックスがけげんそうに振り返る。画像に眼を向けたまま、そんな従兄にアネリースは語を継いだ。
「もし私が呼ばなければ、ブライアン大佐は今でも生きてたかしらね」
ブリッジ内の動きが一瞬止まる。
「アネリースさん! そんなのアネリースさんに責任は……!」
さっと振り返り、言い立て始めるマリアをアレックスが止めた。それから従妹のほうへ向きを変えると、しかめつらしくミラーシェードを指で押し上げる。
「まあ確かに大佐は死ななかったろうが、その場合こっちでの展開もちょっと違ってたろうな、アーニャ」
「どんな風に?」
「可能性一、ブライアン大佐はなにも知らないまま、したがって『ラージ』は俺たちの力及ばずザンジバルとランデブー、自爆して一切合切が巻き添え。ことは『ラージ』の叛乱として処理され真相は闇の中。可能性二、まああれだけの騒ぎだから遅かれ早かれ大佐の耳に入り、彼はあわててすっとんでくるが、すでにザンジバルは自爆、一切合切が巻き添えになった後」
「……それってどっちも変わんないじゃないですかー!」
マリアが口をとがらせた。
「そんなことはないぜマリア。少なくとも二のほうが、大佐が真実を知る可能性が高いんだ」
「そーいうのを詭弁っていうんですアレックスさんっ!」
「……その言い方、アーニャにそっくりになってきたぞ」
「悪かったわねアレックス」
言い合うふたりにアネリースは思わず苦笑した。
「要するに私たちかブライアン大佐か、結局どっちかが死んでたって言いたいのね」
「そういうこと。ついでに言っとくと、本番前に決まって弱音を吐くのはアーニャの悪い癖だな。こっちまで気が滅入るぞ」
「はいはい。それじゃ強気になりましょうかね」
アネリースはレーダーを一瞥し、同じ画像を共用スクリーンに出した。すでに個々の艦種が識別できるほど距離は縮まっている。
「今度の獲物は……」
アネリースの白い指が、その中のひとつの光点をぴたりと指差した。
「あれにするわ」

用語解説
グロッキー一歩手前の〜……精神安定剤やアルコール類は消費し尽くされ、見るからに神経質そうだった航海長のディオル・ドナーはついに錯乱してしまったらしい。
かわいそうに……。
- キッチンがげちょげちょに〜……リアクション中に「慣性中和機構の限界を超えて機動した」というような表現があるので、こうなるのは全く論理的。きっと航宙船乗りの間では、絶対経験したくないことのひとつとかに数えられているに違いない。
- 彼女はげんなりした〜……後々の影響という点では、実はエーリッヒの艦隊よりこっちのほうが遥かに深刻な問題だったりする。
- 連合条約軍ディオニクス社直属艦隊……要するに、三菱重工やマクダネル(でいいんだっけ?)なんかが自衛隊や米軍内に直属の部隊を持っていて、自社の危機に勝手に動かし敵を叩き潰すようなものらしい。
企業社会の恐怖ここに極まれりといった感じである。
- 策士を気取っていても〜……仮にもエリートなんだから、最後まで策で翻弄するくらいのエレガントさがほしかったと思うのはちょっと贅沢。
- キース・ブライアンの顔つきには〜……そうらしい。プレイヤーはよく知らんが。
- もし私が呼ばなければ〜……アネリースが連合条約軍へ連絡したことが決め手となって、ブライアン大佐は『ラージ』乗員を救助に向かうことを決めていた。
……よく考えたら、アネリースは以前同じようにして『ラージ』をイヴをめぐる海賊(とマフィア)の争いに引っ張り込み、それがもとでキースは連合条約軍(の中のエーリッヒの手先)から反逆者呼ばわりされることになったのだった。つまり、ブライアン家は親子そろってアネリースに災難に引きずり込まれているわけである。
ちょっと不憫かもしれない。
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