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CREGUEAN#8 "Blaze of Glory" Private Reaction8
人のゆくえ



■まえふり■

『ラージ』と要塞ザンジバルのランデブーをやっとの思いで阻止した『オーディーン』を始めとする面々に、エーリッヒ・ヴィッテンベルク率いる連合条約軍ディオニクス護衛艦隊が迫っていた。
 戦いは圧倒的なエーリッヒ優位で進むが、隙をついたガーダーの船や海賊船が彼の乗る旗艦『バロッサ』を強襲、白兵戦に持ち込むことで形勢を逆転させる。だが、いよいよエーリッヒを追いつめた時に、メインコンピュータを破壊され沈黙していたザンジバルが、シャドー(超能力者)の働きにより機能を回復、砲撃を始める。


-1-

 ザンジバルが攻撃を開始した時、『レディ・ドラゴン』は駆逐艦の攻撃をかわし、一息つこうと敵旗艦『バロッサ』のふところにもぐりこんだところだった。
 いきなり狂ったような表示を始めたセンサに、アネリースは驚いて船外カメラのスイッチを入れた。スクリーンの中で次々と爆発していく艦船の姿に今度は仰天する。
「一体なにが起こってるの?!」
「ザンジバルが攻撃してきてるらしい!」
「なんですって?! 聞いてないわよそんなの!」
 アレックスの返事にアネリースは吐き捨てるように応じた。素早くいくつかの表示をチェックし、砲撃が間違いなくザンジバルからのものであることを確認する。
あのバカども、単に下手くそなだけなの? それともこっちまで巻き添えにするつもり?!」
 彼女が毒づくのも無理からぬことではあった。なにしろザンジバルの攻撃ときたら、援護などという生易しいものではない。文字通りの無差別、当たるを幸いの猛攻なのである。ディオニクス艦隊はもちろん、海賊やガーダーシップ、密輸船も、予想だにしなかった方向から襲いかかる攻撃にまるでおもちゃのように爆発していく。
「とにかく逃げるわ!」
「アネリースさんっ! 前!」
 鋭いマリアの声に、アネリースはとっさに船首を振った。間一髪、破壊された艦の破片が鼻先を通り過ぎていく。そのまま彼女は『バロッサ』を盾にしながら退避しようとするが、傷つき酷使された『レディ・ドラゴン』の動きは鈍い。
 その間にも、周囲の艦船は次々とザンジバルの餌食になっていく。
「アーニャ、とても逃げきれないぞ!」
 ついにアレックスが絶望的な叫びを発した。その瞬間、すぐ近くにいたフリゲートが爆発、あおりをくらって『レディ・ドラゴン』は飛ばされる。
 衝撃波を受けて船全体が悲鳴をあげた。激しい揺れにふりまわされ、3人はシートから床に叩きつけられる。ブリッジの照明が消え、どこかがショートしたのか焦げたような臭いがあたりに広がった。
「……アレックス?! マリア!」
 アネリースは夢中で呼んだ。身を起こすと左肩に激痛が走ったが、そんなことにかまっていられない。シートにすがって立ち上がり、急に薄暗くなったブリッジを透かし見る。
「ふたりとも大丈夫なの?!」
「……大丈夫だ」
「し、死ぬかと思いましたぁー……」
 どうやら無事そうなふたりの声に少なからずほっとし、アネリースは肩をかばいながらシートに腰かけた。かろうじて光っているディスプレイの表示を一瞥すると一瞬考え、口を開く。
「アレックス」
「なんだ?」
 手探りでヘッドセットを探しながらアレックスが応じた。転がった際にミラーシェードをどこかへ飛ばしてしまったらしく、顔の傷跡と閉じられた両眼があらわになっている。そんな彼にアネリースは決然と言った。
「全動力停止、フュージョンドライブも補助バーニアも、一切合切切っちゃって。マリア、センサを含めた船内外の全部の電力を、非常電源も含めて全部オフ」
「……本気か?!」
「アネリースさん! そんなことしたら逃げるどころか外の様子もわかんなくなりますよ! 立ち往生したまま一瞬で宇宙の藻屑なんてやです!」
「どのみちもう逃げるのは無理よ。そっちの表示を見てみなさい」
 なおも文句を言いかけたマリアは、自分の席のディスプレイに眼をやり、沈黙する。アネリースは額に落ちる髪をかきあげた。
「いちかばちか死んだふりをするわ。うまくすればザンジバル氏、今の爆発で巻き添えになったと思ってくれるかもしれない。ふたりとも、今言った他にも奴のセンサにひっかかりそうなものは全部オフにしちゃってちょうだい。再起動に何時間かかってもかまわないから」
「了解」
 ようやくヘッドセットを探し当てたアレックスは、それ以上なにも聞かずに自席に戻るとシステムを停止し始めた。だがマリアは動かない。シートの横に突っ立ったままアネリースを見つめている。
「アネリースさん」
「なに?」
「もし巻き添えになったと思ってくれなかったらどーなるんですか?」
「…………」
 マリアの声はわずかにふるえていた。アネリースは一瞬言葉につまるが、すぐに微笑み、少女に向かって優しくうなずきかける。
「大丈夫よ。その時は私がなんとかする……絶対になんとかするから、マリアは心配しないでいいわ」
 実際にはなんとかどころか、攻撃されたこともわからないうちにあの世行きだろう。マリアに分かるのだから、アネリースに分からないはずがない。一体なにを根拠に彼女はそんな自信ありげなことを言うのだろうか。
 だが、マリアはそれを指摘しなかった。言おうとしてためらい……代わりにくるりときびすをかえしてどさりとシートに着地した。そのまま勢いよくスイッチを操作し始める。
「……赤外線センサを避けるために、できる限り放熱を押さえます……冷蔵庫やエアコンなんかも切っちゃいますからねっ! 後で文句言わないでくださいアネリースさんっ!」
「了解」
「それと!」
「?」
「帰ったらお給料上げてください!」
「……考えとくわ。ありがとう、マリア」
「別にお礼言われなきゃならないようなことはしてません! もーやけくそなんですあたしってば!」
「はいはい」
 こんな時ではあったが、アネリースは思わず笑った。そして幾分気が楽になってシートにもたれ、肩の痛みに眉をしかめる。
「……全動力、停止するぞ、アーニャ」
 アレックスが静かに告げた。


 砲撃の嵐の中、『レディ・ドラゴン』はただじっと身を縮めていた。
 小型のこの船には、ディオニクス艦隊や『オーディーン』にくらべればザンジバルの攻撃が当たる可能性は比較的低い。だが反面、直撃されればひとたまりもないし、破壊された他の艦船の破片の脅威も大型艦とはくらべものにならないほど大きい。実際、すでに数個の破片が船体に衝突、気密もれや破損を引き起こしていた。致命的なものでないのが不幸中の幸いではあるが、その幸運もいつまでもつか分からない。なにしろ、眼も耳もふさがれ手足を縛られて爆撃の中に転がされているも同じなのだから。
「……3分経過」
 真っ暗なブリッジに、クロックカウントをするアレックスの声が響いた。ドライブや計器類の作動音が全くない中、その声は不自然なくらい大きく聞こえる。
「……4分」
「……アネリースさん……」
 緊張に耐えかねたか、とうとうマリアがかすれた声を出した。
「なに? マリア」
 アネリースが答えた瞬間、いやな衝撃音と共に船体がぐらりと揺れた。左肩がシートに当たり、とんでもない激痛に彼女は歯をくいしばる。どうやらまたなにかがぶつかったらしいが、センサをすべて切ってしまっている今は、どんな被害を受けたのか確認することもできない。
トイレに行きたいです
「我慢しなさい」
「……はい」
「5分……いつまでやるんだ? アーニャ」
 アレックスのほうは、ふたりにくらべて比較的落ち着いている。もともと盲目の彼にとっては暗いのは障害でないし、ヘッドセットで耳から時間を確認することもできる。長く重い闇の中でひたすら耐えるしかないアネリースやマリアよりは恵まれているといえた。
「10分まで待つわ……そしたらまずセンサを起動。異常なければ……」
 また衝撃音がし、船の奥底で気密が漏れる音がした。噴出する硬化剤がすぐ穴をふさいだのか、程なくくぐもった音は止まる。アネリースは聞こえないようにため息をつき、額の汗をぬぐった。
「気密服を着ればよかったわね……」
 せっぱつまっていたとはいえ、そのくらいはしておくべきだった。わずかな後悔と共に彼女はつぶやき、また汗をぬぐう。緊張だけでない。そろそろ左肩の痛みも耐えがたいものになってきていたのである。ここまで痛むのは、もしかすると骨が折れているのかもしれない。
 だが、ここでへたったら船長失格である。
「8分」
 あと2分……アネリースはマリアに声をかけた。
「センサの起動準備をして。とりあえずは、そうね、船外カメラを。受像レンジは高感度光学と赤外線」
「はい」
「9分……あと1分だ」
 マリアがコンソールをいじる音が闇の向こうから伝わってきた。さすがにというか、見えなくともキイの位置などはすべて分かっているらしい。
「カメラ起動準備、できました」
「10分」
「起動して」
「……はい」
 一瞬おいて、共用スクリーンにぱっと映像が浮かんだ。攻撃されるのでは、という恐怖がふとアネリースの頭をかすめたが、映像を見た瞬間、そんなものはきれいさっぱり忘れて彼女は思わず立ち上がる。
「な……にこれ」
 間違って瓦礫置き場に迷い込んでしまったのではと錯覚するような光景だった。あたり一帯に広がるのは破壊された艦船と無数の破片、たまに見える有機物は真空に放り出された死体……先程の熱気が嘘のような、意志を持ったもののなにひとつない空間にそこは変貌している。その規模は『ラージ』の時の比ではなかった。
「……アレックス、明かりをつけて。マリア、他のセンサも起動……とりあえず生存者を探さないと」
 かろうじてそれだけアネリースは言った。暗闇の中で見るその光景は、より一層すさまじいものに見える。きっとしばらく夢に出るだろうと彼女は思った。航宙船乗りの悪夢だ。
「でもザンジバルは? アネリースさん」
「見れば分かるでしょ……もう終わってるわ」
 スクリーンの中でちらちらと星がまたたいている。真空中ではありえないはずのその光景は、それだけ多くのものがこの空間に漂っている証拠だった。まさにザンジバルは徹底的にやってのけたのである。徹底的な破壊を。破壊のみを。
 なぜこんなことになったのか、なぜここまでしなくてはならなかったのか……助かったという安堵よりもその思いにアネリースは首をふり、こみあげる吐き気を押さえた。
 ブリッジが明るくなる。
「あ……アネリースさん、あれ……!」
 不意に甲高い声をあげ、マリアがスクリーンの一点を指差した。彼女の指を追って、アネリースもスクリーンに視線を向ける。
 そこにはひときわ大きな残骸が漂っていた。恐らく生存者はいないであろう。ぎざぎざになった不恰好なシルエットが、高感度に設定されたカメラに捕らえられ、星をバックに黒々と浮かび上がっている。見る影もなく破壊されてはいるが、外観の特徴はかろうじて判別できた。
「まさか……」
 連合条約軍ともトレラディンの艦隊とも、もちろんガーダーシップとも異なるその特徴に、アネリースは見覚えがあった。というより、ほんのつい数刻前には、彼女はその艦に乗っていた者たちと話をしたばかりだった。キース・ブライアン、ディ・ウォーレン、その他の人々……。
「『オーディーン』……?!」
 アネリースは低くうめいた。
 そのまま両手で顔を覆い、崩れるようにシートに座りこむ。
「アネリースさんっ!」
「アーニャ!」
 マリアが、続いてアレックスが席を飛び出し、彼女に駆け寄った。
「アネリースさん、アネリースさんっ! 大丈夫ですか?!」
「……ごめん、大丈夫よ……ちょっと驚いただけ」
 アネリースは顔から手を離した。のぞきこむマリアに向かって、蒼白な顔の中に笑いを浮かべてみせる。
「でも大丈夫って顔じゃありませんよ!」
「今まで言わなかったけど、実は床に転げたときに左の肩をおかしくしたの。そのせいだわ多分……」
「……肩を出せアーニャ。マリア、医療キットだ」
 アレックスが鋭く言った。マリアはブーメランのような勢いで医療キットを引っ張り出してくると、アレックスが慎重に触診する間女船長の背を支える。アネリースは黙ったまま、スクリーンから眼をそむけるようにしてふたりに身をゆだねていた。
「……まだ死んじゃったって決まったわけじゃありませんからね! アネリースさん!」
 そんな彼女に、マリアが強い口調で言った。
「あーいう艦は大抵、脱出ポッドとか脱出艇を備えてるじゃありませんか。きっと絶対逃げてます! 艦と運命を共にだなんて、あの若造中尉と下っ端どもにそぉんなカッコいい死にかたができるわけありませんっ!
「俺もマリアと同意見だな。いやかっこいいとかそういうのは別にしてだが」
 診断器の表示を読みあげるよう彼女に指示しながら、アレックスも続ける。
「老いたるこの船が生き残ったんだ。他にも切り抜けられた奴らはいただろうさ、アーニャ。きっと俺たちと同じように、どこかで一息ついてるよ」
「そうそう、そんでもって人の苦労も知らないで文句ぶーたれてるんですよ。心配なんてしてあげるだけ損ですってば!」
「……そんなもんかしらね」
 ぼそりとアネリースはつぶやいた。手当てのためか励ましのためか、その顔にはわずかに血の気が戻ってきている。アレックスから渡された注射器を手に、マリアはこくこくとうなずく。
「だから気にすることないですアネリースさん!」
「アーニャ、少し休め」
 応急の添え木を当て、肩を固定しながらアレックスが言った。
「とりあえず、急ぐ用事もないんだろう? 生存者の捜索は俺とマリアでやるから寝たほうがいい。骨折は後でたたるからな
「悠長にそんなことしてらんないわよ」
「駄目だ」
 アネリースは口をとがらせ、身を起こそうとした。アレックスはそれを押しとどめ、意味ありげににやりと笑う。
「大体、やろうったって無理だぞ。今マリアが注射したのは睡眠薬だ」
「……アレックスさんごめんなさいー、まだしてないんですぅ」
「……あた」
 マリアの情けない声に彼は頭を抱えた。そんなふたりを見てアネリースは苦笑いし、降参の印に右肩をすくめる。
「そんなもん注射されるくらいなら自分から休むわよ。じゃあ、後は頼んだわ」
「了解」
「まかせてください!」
 頼もしいふたりの返事に片手で答え、彼女はゆっくりと立ち上がった。アレックスが手を貸そうとするのを断ってドアのところへ歩いていく。
 ドアをあけたアネリースは、そこでふと振り返った。スクリーンにはまだ『オーディーン』の残骸が映っている。ザンジバルという巨大な手に無残につぶされ物言わぬ塊と化した艦は、ただ静かに星空を漂っていた。
「……結局、いちばん強かったのは機械仕掛けの神ってことね」
 怒りとも侮蔑ともつかない口調でそう言うと、彼女はブリッジを出ていった。


-2-

 ……数週間後。
 アネリースたちはようやく日常生活へと戻ってきていた。
 戦場で収容したわずかな生存者をしかるべきところへ送り届け……メディアの店を介して『レディ・ドラゴン』を修理に出し……滞在先探し他様々な雑事を片付け……ようやく一息ついた彼女たちは、ある日街へと出てきていた。
「……あ、クローカシスICですか? あのぅ、そちらの報道番組の中で消息を教えていただきたい人が……ええ、『ラージ』の乗員なんですが……は? 関係? えー、知人、とでもいいますか……」
 しゃれたショッピングモールの一角。公衆ICからクローカシスの支社に話をするアネリースを、ジュースのストローをくわえたマリアはベンチから眺めていた。スリムなワンピースに身を包んで薄い色のサングラスをかけ、左腕を吊った姿の彼女は、どことなく居心地悪そうに画面に向かっている。
「えー、いえ、身内ではないんですが……その……は? ……失礼な、それはどういう意味? 私は彼らと……もういいわ。そっちなんかに聞いたのが間違いでした。それじゃあ」
 通信を終えたアネリースは、足音も荒くマリアのもとへ戻ってきた。怒れる美女に通り過ぎる人々が何事かと振り返る中、勢いよくベンチに座ると置いてあったジュースを一息に飲み干す。
「……どーしたんですか? アネリースさん」
「どうしたもこうしたも……」
 アネリースはぼやいた。
「馬鹿にしてるわ。『あー、あのハンサムな中尉さんでしょう? あなたのようなかた最近多いんです。お気持ちは分かりますけど、そういったご質問にはお答えできないんですよ。プライヴァシーの問題もありますし』だって」
 マリアは吹き出し、盛大に笑い転げた。要するにアネリースは、ディオニクス社事件で一躍有名になったキース・ブライアン目当てのミーハー女性と間違えられたわけである。
「だからちゃんと名乗ればよかったんですよー、一緒にディオニクス艦隊を相手にした『レディ・ドラゴン』の船長だって」
「そして取材されろっていうの? 冗談じゃない」
 ディオニクス艦隊との決戦に参加した者たちの行動は、その後ふたつに分かれていた。ひとつは積極的に自らの体験を語り、人々の前に出ていく者、もうひとつは口を閉ざし、それまでの生活に戻る者である。
 そしてアネリースは後者だった。容姿、経歴、言動と“大衆へのアピール度”満点な要素を兼ね備えた彼女は、だが極力自分の存在が知られないことを望んだ。なぜなら、彼女にとっていちばん大切なのは自分と『レディ・ドラゴン』の乗組員の生活だったからである。まつりあげられるのはともかく(目立つのは彼女も嫌いではない)、それで生活が壊されるのはいやだった。
「それにしても……」
 ようやく怒りもおさまったのか、行き交う人々を眺めながらアネリースはつぶやいた。
「戦争ってこういうもんなのかしらねぇ、マリア」
「なにがですか?」
 マリアが問うと、彼女はどことなくあやふやな表情で赤銅色の髪をもてあそんだ。その様子は、自分が思っていることをどう言葉にしたものか迷っている風である。
 やがて、彼女はため息をつくと右肩をすくめた。
「あれだけ協力して必死になってディオニクスに立ち向かったのに、終わったらみんな散り散りになって行方も知れない。そして誰もそれを不思議だと思わない。なんだか変な気分だわ」
 海賊だったアネリースの周囲では、戦いは生活の延長だった。日常共に暮らしている人々がそのまま一緒に襲撃に赴き、戻ればまたもとのとおりに家族、親類、友人となる……それが当たり前の世界で暮らしていた。だから、共に戦っていた人々が日常に戻った時にすっかり消えうせてしまったことに、彼女はとまどいを感じているのだった。
「……アネリースさん」
 しばらく迷った後、マリアは呼びかけた。
「『ラージ』の人たち……あの若造中尉が見つかったら、どうするんですか?」
「さあ、分からないわ」
 アネリースは笑った。笑った後で幾分考え深い眼をする。
「分からないけど……とりあえず、このままうやむやになるのはいやなのよ。たとえば再会してこれからもよろしくでもいいし、お互い2度と顔なんか見たくないっていうのもいい。もし死んでいるならそれはそれで構わない。ただ、こんな感じで中途半端なまま流れていくのはね、納得いかないわ」
「納得いかないの嫌いですもんねー、アネリースさん」
 だから『ラージ』やキースとあそこまで深く関わったのだろう。イヴやディオニクスやキース自身や歴史や、いろいろな「納得いかない」ものと対決するために。誰かの「納得いかない」にまきこまれた人を助けるために。
 ……多分アネリースさんは、一生かけてもあの若造中尉を探そうとするんだろうなあ、とマリアは思った。それでいて再会した時には「あら生きてたの、良かったわね」とか言って、何事もなかったかのように去っていくに違いない。それまで探していたことなどおくびにも出さずに。
 ふたりはしばらく黙ったまま、にぎやかなモールを眺めた。
「……さて」
 やがてアネリースが立ち上がり、片手で大きくのびをした。手近なゴミ箱に空のコップを放り込み、マリアを振り返る。
「とっとと買い物済ませて帰るとしましょうか。きっとアレックスが暇で暇で死にそうになってるわよ……ほしいのはなんのブラウスなんだっけ?」
「ル・ブランのですー。8万ポンドの今月の新作、えへ」
「……今回はボーナスだからいいけどね、今度からそういう類のおねだりはアレックスにしなさい。男の人に買ってもらうほうがうれしいでしょ」
「でも、お財布握ってるのアネリースさんですからっ」
「…………」
 やれやれ、という表情でアネリースは歩き出す。その後ろをマリアは飛び跳ねながらついていった。


用語解説

  • あのバカども〜……実際には、ザンジバルを復活させた超能力者(PC)が「あそこにいる艦隊をやっつけろ」と命令したのを忠実に実行しただけということになっている。
     ……命令したPCこそいい面の皮だと思うのはわたしだけか?

  • フュージョンドライブ……フォールド(超光速)ドライブに対する通常航行用ドライブのこと。核融合で液体水素を熱し、その水素を噴出させて進む。

  • トイレに行きたいです……たまにいるよね、こういう奴。

  • 骨折は後でたたる〜……実際、骨折すると貧血を起こしたり後で熱を出したりする。要注意(経験者)。

  • 艦と運命を共にだなんて〜……そこまで言うか、マリア。

  • 機械仕掛けの神……デウス・エクス・マキナ。古代ギリシアの劇の中で、突然登場し論理無用の力技でストーリーを進めてしまう強力な存在をこう呼んだらしい。ここでアネリースがこう言っているわけは推して知るべし。
    『シナリオ#1 遥かなるアーケイディア』では、スーパーコンピュータ要塞SOLが物語中でこういうふたつ名をつけられていたが、こちらは単純に「ちょー強いコンピュータ」という意味である。

  • ディオニクス社事件で一躍有名になった〜……この時点では本当にそうなのかはまだ不明。
     ちなみに、わたしも昔アポロ13号のドキュメンタリーを見て管制官ジーン・クランツにほれこみ、それを放映したテレビ朝日まで問い合わせの電話をかけたことがある。その時はプロデューサー氏まで出てきてちゃんと応対してくれたので驚いた。
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