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CREGUEAN#8 "Blaze of Glory" Private Reaction2
恩返し



■まえふり■

 ファキーサへ向かう密輸船の護衛を引き受けたアネリースたちは、途中、謎の武装船団に襲われる。危うい所へ駆けつけて彼女らを救ったのは、連合条約軍の駆逐艦『ラージ』だった(第2回リアクション)。
 その後、『ラージ』艦長のブライアン中尉がとある事情(ややこしいので省略)からひそかにソースヘブン太陽系へ行きたがっているという話を聞きつけたアネリースは、足を提供するという話を彼にもちかける。だがキースは「方法は考えてある」と彼女の話を断るのだった。
 そんな折、他の密輸船が仕事で運んだ武器が、実は連合条約軍の輸送船から強奪されたものだったことが判明する。とうとう「海賊」というレッテルを貼られた密輸船たちは……(第3回リアクション)。


「密輸船が海賊を?」
『レディ・ドラゴン』の船長席で、アネリースが眼を丸くした。オペレータ席のアレックスが、顔の傷跡を隠すミラーシェードを指先で押し上げ、うなずいてみせる。
「どこからそんな話入れたの、アレックス」
「他の船の連中が連絡してきたよ。自分がうまく立ちまわっても他の奴がひっかかれば一蓮托生だから、気をつけろってことらしい」
「ふーん、裏にはなにがあるのかしらね」
 赤銅色のお下げをもてあそびながら、気があるのかないのか分からないような返事をアネリースは返した。それまで黙っていたマリアが、我慢できなくなって割り込んでくる。
「ねえねえアネリースさん、なんで裏があるって分かるんですかー?」
「護衛でぎちぎちに固められた連合条約軍の輸送船を狙えるような密輸船が、そういると思う?」
「……あー、それもそうですね」
 敵地であるコルディア宙域では、連合条約軍の輸送船は大抵船団を組み、護衛の駆逐艦やフリゲートを従えている。それを襲うのは“本物の海賊”であるアネリースたちですら肝試しに近い行為だったのだ(襲ったことがないとは言わないが)。ましてや、いくら鼻っ柱が強いとはいえ素人の密輸船連中では、束になったって相手にできるものではない。裏に事情があると彼女が思うのは当然である。
「でも、ますます仕事がやりにくくなっちゃいますねー。一体どうしちゃったんだろ。最近変ですよアネリースさん」
 アネリースの返事はなかった。なにか気になることでもあるのか、船長席のディスプレイをただ眺めている。
「……アネリースさんっ?!」
「……あ、はいはい、ごめんねマリア、聞いてなかったわ」
「もうアネリースさんてばっ」
 あわてて返事をする女船長に、マリアはふくれっつらで繰り返した。
「最近、なんか変じゃありませんかって言ったんですっ。『ラージ』といいコルトレイク貿易の件といい、あっちもこっちも急に密輸船を眼の敵にし始めたみたいでっ」
「…………」
 マリアの言葉に一瞬考えこむ表情になったアネリースだったが、やがて興味なさそうに応じると立ちあがった。
「きっと今までが楽すぎたんじゃない」
「……そーいう問題なんですか?」
「分からないことを考えても仕方ないってこと……ところで、コーヒーでも飲もうと思うんだけど、ふたりともなにかリクエストはある?」
「……あ、えっと、それじゃイチゴジュース」
「俺は紅茶。冷たいのがいい」
「了解」
 お下げを振りながら彼女はブリッジを出ていった。その後姿をしげしげと見送っていたマリアは、ドアが閉まるやいなやアレックスに向き直って首をかしげる。
「アレックスさーん、アネリースさん最近なんか上の空じゃありませんか?」
「まあな」
 視覚障害者用の音声入出力用ヘッドセットをつけかけたアレックスは、その手を止めると苦笑する。
「『ラージ』の艦長のことが気になるんだろうな」
「えー、なんであんなのが……はっ! もしかしてアネリースさん、あの態度だけでかい青二才若造暴走かっこつけイノシシ坊やのたかが中尉にラブラブフォーリンラブっ?! それだけは駄目ですアレックスさんっ! アネリースさんを止めてくださいっ!」
「違う違う」
 あまりといえばあまりな言いように、彼は再び苦笑した。なにが気に入らないのか知らないが、マリアはキース・ブライアンを嫌ってはばからない。彼女いわく「あんなのがおじいちゃんと同じ軍人だと思うと、おじいちゃんが馬鹿にされてる気分です!」とのことである。
「多分恩を返したいんだよ、アーニャは」
「恩?」
「こないだファキーサで『ラージ』に助けられたろう?」
「……あんなの出会い頭のラッキーみたいなもんじゃないですかー。アネリースさんが恩を感じることないのに……大体、そんなことにこだわるなんてアネリースさんらしくないですっ!」
 口をとがらせてマリアは断言する。アレックスはみたび苦笑すると、下がってもいないミラーシェードを指で押し上げた。ややあって、考えながら口を開く。
「まあ、そのへんは難しいんだが……俺たち海賊の一族の結びつきの基本になるのは、血縁とそれから……なんて言ったらいいかな、“義”とでも言うのかな、そういうものなんだ」
「義?」
「ああ。たとえば、受けた恩は返す、仲間を裏切らない、困っている者がいたら助けてやる、というような……アーニャは跡取りというか、頭目候補として育ったから、そういうのが人一倍強いんだよ」
「それってつまり、義理人情を大事にするってことですか? アレックスさん」
「ちょっと違うな。改まって教わるもんじゃないんで、俺もうまく説明できないが……要するに、たとえ敵でも受けた恩は返さないと気になるんだろう」
「…………」
 今度はマリアが考えこんだ。アレックスには見えないが、理解しがたいという表情をしている。
「……でもでも、アネリースさんその割にはビジネスだとかこっちの利益だとかにこだわってましたよ。恩返しがしたいんなら素直にそう言っちゃえば良かったんじゃないですか?」
「やっぱり生活のこともあるしな。益もないのに危険に飛び込むわけにはいかないし、“利のみで動く、情では動かず”のアネリース・フィレスの評判を変えたくなかったんじゃないか? ある種俺たちが仕事できてるのはそのおかげだから」
 元海賊であるアネリースが密輸船の仕事をするのは、実は相当難しい。依頼主からは荷を横取りされるのではと疑われるし、同業者に至ってはかつて彼女が獲物にしていた者たちである。そんな中で信用を得ていくには、ひとつの断固たる方針を作りそれを貫くことが必要だった。
“利のみで動く、情では動かず”“契約を違えれば報復”……つまりアネリースは、利害がからまなければ、契約を守るならば、自分が牙をむくことは絶対にないと、これによって宣言しているのだ。そしてそれがあるから、周囲も彼女を排除しないのである。だからどんなことがあってもこのイメージは崩せない、そう考えているのだろうとアレックスは説明した。もっとも……
「単に本当のことを言うのが恥ずかしかったからってのもあるんだろうけどな」
 続けた彼の言葉に、マリアは途端に眼を輝かせる。
「なぁんだ、実はアネリースさん、不器用で照れ屋さんなんですねっ」
「……本人には絶対言うなよ、そんなこと」
 あわててアレックスが釘を刺した。彼女のことである、この調子でアネリースに面と向かって言いかねない。容姿に加えて性格的なコンプレックスまで刺激されたのでは、アネリースもたまらないだろう。
「なんでですかー?」
 果たして、マリアはきょとんとした声をだした。
「小説やドラマなんかで好かれるのは、大抵そういう人だって決まってますよ。アネリースさんも隠したりしないでその線からアプローチすれば、男の人なんてイチコロじゃないですか」
「あのなマリア、誰だって自分の短所をはっきり言われたら嫌だろう?」
「……不器用で照れ屋って短所なんですか?」
「アーニャはそう思ってるんだよ」
「…………」
 マリアが再び考え込んだ時のことだった。通信が入ったことを知らせる音がアレックスのコンソールで鳴った。素早く彼はヘッドセットをつけ、音声とキーで受信の指示を出す。
「こちらレディ・ドラゴン……ああ、ガンズじいさんか。アネリースは……ちょっと待ってくれ、席をはずしてる」
 丁度その時、ドアが開いてアネリースが入ってきた。飲み物を乗せたトレイを手にしている。
「お待たせ……マリア、あなた自分のジュースを冷蔵庫の奥に隠すのはやめてくれない? こないだ黙って飲んだのはあやまるから。探しちゃったじゃないの」
「アーニャ、ガンズじいさんから通信が入ってるぞ。頼みがあるそうだ」
 アクセル・ガンズは、密輸船船長の間ではちょっとした有名人である。なにしろ『レディ・ドラゴン』の乗組員たちが生まれる前から密輸をやっていたという筋金入りの男なのだ。その経歴には、めったなことでは他人に敬意を表さないアネリースも一目おいている。
「ガンズが頼み? 珍しいわね」
 小首をかしげた彼女は、トレイをマリアに託すと船長席についた。手早くお下げをほどいて整えると、ディスプレイに画像を映し出す。
<よおアネリース、相変わらず美人じゃの。今度ワシと一晩楽しまんか?>
「それが頼みなら他をあたって。通信終了」
 現れるなりいきなりかましてきた老人に、冷たく言い放ってアネリースは通信を切ろうとした。もちろん本気ではなく挨拶のようなものである。それを知ってか、ガンズも悠然と彼女を手で制する。
<待て待て、そうあわてなさんな、冗談じゃよ。実はちとでかいことをやるのでな、お前さんの手を借りたいんじゃ>
「でかいこと?」
 アネリースは眉を寄せた。
「ヤバいヤマならお断りよ」
<まあ、ヤバいと言えばヤバいかもしれんなあ……なにしろ『ラージ』がらみじゃから>
 とぼけた顔でガンズはあごをかいた。彼女はますます眉をしかめる。
「……『ラージ』?」
<キースの奴に渡りをつけてもらいたいんじゃよ。お前さん、ファキーサで奴に助けられたじゃろ? そのあたりの関係からなんとかならんかと思ってな>
「……あれは偶然よ。あのくらいで期待されても困るわね」
 言いながらも、アネリースは興味ありげな様子を隠そうとはしなかった。彼女に代わってアレックスに飲み物を渡していたマリアは、そんな女船長の姿をちらりと見、なんともいわく言いがたい表情で自席へ戻ったのだった。


用語解説

  • 敵地……実はコルディアと連合条約は現在戦争をしているのである。

  • 連合条約軍の輸送船は〜……太平洋戦争末期の日本では、輸送船団だけで強引に太平洋を突っ切らせたこともあったらしいが、さすがにそこまで連合条約軍は終わってはいないだろう。

  • 束になったって相手にできるものではない……「弱い船は束になってもやっぱり弱い」というのは艦隊戦の基本。

  • あの態度だけでかい〜……マスターいわく「正義感が強いが暴走気味」なだけなのだそうだが……。

  • おじいちゃん……えらい軍人さんだったらしい。

  • ……つまり貧乏なので、結束を守るためにはそんなものに頼らなくてはならないとそーいうことである。

  • ガンズじいさん……交流者さんの密輸船船長PC。真っ赤にペイントした密輸船を乗り回し、女と見ればすぐに口説きたがる元気老人。第3回にキース・ブライアンに協力してソースヘブン太陽系へ行っている。
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